「赤い指」/東野圭吾

 1つのテーマは高齢化社会と認知症。いや、そうではない。人間の弱さが作り出す犯罪とその隠蔽工作。そんなものでうまくいくわけがない。

 誰が犯人とかを当てるミステリではないので、ここから先はネタばれのような内容も入ります。

 大きな問題は人間の弱さ。主役となる家族は3人とも弱い。
 まず主人公の昭夫。一家の主でありながら、息子とも実母とも、妻とも向き合わない。最後にそれを象徴するようなどんでん返しがある。
 そして妻である八重子。息子が起こした犯罪を隠そうとする気持ちはわからなくもないが、それを人に押し付け自分では何もしない。夫を非難するシーンがあるが、読んでいるほうからはどちらも同じにしか見えない。
 そして息子直己。息子自体を描くシーンはあまりないが、このダメな親にこのダメな子供あり、といった感じで、最後にでてくる「あいつらが悪いんだ」というセリフに象徴されていて、結局この家族は他人の所為にすることしか頭にない。だから、実母である政恵に罪をなすりつけるのだ。それしかできないのである。

 普通に読むと、高齢者には高齢者なりの心や気持ちがある、それを覚えておかなければならない、といったあたりに最終的なテーマがあるようには思えるが、僕は“きちんと向き合うことの重要性”というところを挙げる。それは犯罪だろうと老人介護だろうと。
 最後におまけのようについているエピソード、「客観的に自分がしてあげたことはどうだったか」と思うようになるというところは、その向き合うことの重要性を理解している人が行える究極の行為の一例として挙げているんじゃないかなぁと思いました。

 「こいつらホントにダメなやつらだ」と思えるような構成、文章になっているのは、さすが東野圭吾だと思いました(笑

 こんなにいろいろ書いたけど、実際には星4つぐらい。若干ストーリーに薄っぺらさも感じるし。あと、読んでいると苛々したりムカムカしたりする可能性があるし、そもそもミステリじゃないので、エンターテイメント東野圭吾を求める人には勧めません。