「こころ」/夏目漱石

 高校のときに教科書で読んだはずなんだけど。でも改めて読んでみて「この小説をどう頑張ったら一部だけ切り抜けるんだ!?」と思ってしまった。すべてを知ってこその“先生”の告白ではないか。当時の授業がどんなものだったかも覚えていないし、そこで何を得たかも覚えてはいないが、多分くだらなかったんじゃないかと思う。

 「こころ」の中の出来事を並べて物語を書くと、ただの陳腐な恋愛ものになるかもしれない。しかし夏目漱石は違う。その恋愛とか友情とかいうものを、主人公の心の中からのみ描くのだ。文庫本を読みきると分かるが、“先生”の手紙による告白は、全体の半分にもなる。全体の半分ものページを割いて、心の内面をひたすらに記しているのである。
 タイトルが「こころ」である理由もよくわかる。

 それだけ書いて、先生が気付いたことは『おれは策略で勝っても人間としては負けたのだ』というところなんだけどね。今の時代からみれば、こんな当たり前のことは中学生でも気が付くし、そこらへんのアニメとかでも出てきそうなシチュエーションだ。しかし、これを必死に描いた時代と夏目漱石にどっぷりつかってしまった。

 今年はちょくちょくこんな有名作品振り返りなんかもやっていこうかと。ただ単に次に読む本が思いつかなくなっただけのことだけど。