「逝ってしまった君へ」/あさのますみ

声優、絵本作家として活躍されているあさのますみさんの作品。

鬱で大事な友人をなくしたときの感情を、手紙という形に乗せて言葉に紡いでいます。

あさのさんの「君」への人としての尊敬の念があって、
そんな「君」がなんでという気持ち、思い出がどんどん勝手に書き換えられていくという怖さ、それらすべてのいろいろな感情を、
忘れないように、なんとか言葉にしておこうとした言葉たちが、臨場感を持って読者を包み込みます。読書体験なのに、自分が友人を亡くしたかのような気持ちになりました。

ここからは余談ですが、20年前ぐらいにラジオ番組で知った方で、当初はおもしろいラジオをやる方だなあ、というぐらいの印象でしたが、
昔書かれていたブログ(残念ながら、今は削除されてしまっています)での文章が、言葉で表せないほど上手で素敵で、それ以来あさのますみさんの文章が気に入っています。

今回の臨場感も、彼女特有の文章のセンスがあるからこそなのだと思いまして。今後もいろいろな場面でエッセイなどを書いてもらえたらいいのになあ、と思っているのでした。

「ブラック・ショーマンと名もなき町の殺人」/東野圭吾

地元で起こった殺人事件を元マジシャンの叔父と解決していく、というストーリー。

さすがは東野圭吾で、マジシャンの叔父のキャラクターがとても癖があって印象に残るが、ストーリーだけ見ると若干こじつけ感は否めないところはある。そもそも主人公たちが犯人探しをする理由も薄いしなあ。

ということで、気楽には読めるけど、1冊目にはおすすめしないかな。もっと楽しめる作品もたくさんあるしね。

「魔力の胎動」/東野圭吾

「ラプラスの魔女」につながる物語、とある通り、ラプラスの魔女に出てくる円華がいくつかの事件を解決する物語。

最近はこうやって売れた作品の後日譚やエピソードゼロが出ることが多いですね。この作品は本編を知らなくても楽しめる作品ですが、逆に言うと、そこまで本編とのつながりを感じることはない感じがします。

「逆ソクラテス」/伊坂幸太郎

小学生が主人公の短編が数本。

いやー、好きなタイプの小説でした。

社会にはびこる問題を、子供たちやその味方となる大人が爽快に解決していくような物語。
どの問題も、世の中によくあり、しかもあまり重要として捉えられていないけれど、本質的な問題ばかりでどきっとする。
それを、きちんと問題だと捉えて、それを自分たちでなんとかしようとする小学生はすごい。
(そんな子供はあんまりいないかもしれないけどね。)

当然これだけで説明を終わらせることはできないんだけど、
小学生が主人公でもあるにも関わらず、絶妙に伊坂幸太郎っぽさがしっかり盛り込まれていて、
小気味よく読むことができる物語でした。
ほんと好きなタイプの小説!(2回目)

「アンマーとぼくら」/有川ひろ

久々に沖縄に帰った「ぼく」が、「おかあさん」と思い出の地を巡るのだが。

冒頭からちょっと“意味ありげな”描写があるので、
ただの思い出巡りではないとは思っていたけど。

複雑な家庭だし、それぞれの思いはわかるけど、
それにしても主人公の父親は子供に対してひどい父親だよなあ、と思わざるを得ない。
しかし、それも中盤、あの言葉を引き出すための演出だったのかな。あ、結局は引き出されないんだけど。

最後の展開には驚きだった。
いろいろな思い出が、沖縄の地で、奇跡として蘇る。

最近ご無沙汰していた有川作品なので、
昔に比べると作風がだいぶ変わってきたのかな、と思うような作品でした。

「クスノキの番人」/東野圭吾

今回の東野圭吾はファンタジー要素の入った作品。
ナミヤ雑貨店の系統にちょっと近いのかな。

パワースポット的なクスノキを守るように言われた主人公が、
クスノキの不思議な力に少しずつ気付いていき、
最後はその力をうまく使って小さな事件を解決する、というお話し。

人が死ぬとか、トリックが、というミステリではなくて、
うまい設定といい感じのハッピーエンドで、ほっとできる作品です。

「シーソーモンスター」/伊坂幸太郎

嫁姑問題から始まったのかと思ったら、
設定は諜報機関の隊員、って奥様は取り扱い注意かよって。

いくつかの小説で太古から未来までを結ばれる連作のなかの一部を読んでいるのですが、
うまいこと話が連結されていて、
もちろん諜報機関の隊員という設定が、どこまでも生きてくる作りになっているところは
さすがは伊坂幸太郎だな、と思うばかり。

いろいろな伏線が、きれいに回収されていき、楽しく読むことができる一冊でした。

「R帝国」/中村文則

実際に現在社会に起こりうることを、嫌というほど見せつけてくる小説。
少し未来の日本のような国が舞台だけど、もはや具体的にどこの地域を指しているか見えてしまうぐらい。

民意なんか簡単に操作できる、とか、難民問題やビジネスとしての戦争の話など、
何も気にせず生きていくこともできることを小説の形で表現して完結しており、
別に読者に回答は求めないけれど、なんとも言えない読後感に、
読者側もどう捉えるか、考えざるをえない。

「ホワイトラビット」/伊坂幸太郎

一晩に起きた事件の顛末を、独特の語り口調で展開させていく一冊。
今回も、どこか憎めない悪役がなぜか事件に巻き込まれて、という感じ。
全体的に仕掛けられていて、徐々に「そういうことなのか」と分かっていくのは痛快だけど、
立てこもり事件ということもあって、そこまで躍動感とかがあるわけではなかったかな。

「危険なビーナス」/東野圭吾

相変わらず描写がうまくて、また次はドラマか映画か?と思わされてしまう。
特に今回は、主人公と行動をともにする楓の描写がいちいち思わせぶりで、
映像化したら誰になるんだろうと思わされてしまう…

…と思って検索したら同じことを書いている人が何人かいた。そうだよな。わかるよ。

ストーリーもいつもどおり並以上なので読んでいて飽きないし、
うまいことやりよるよ。ほんと。
いや、褒め言葉で。いい意味で。