個人的ベストブック2010「最高の一冊賞」

2010年に読んだ本の中で、お勧めしたいと思った本を勝手に書きます。

今年の「最高の一冊賞」は、冲方丁の「天地明察」に決定です!

天地明察の感想を書いたときにも書いたけど、
何度か失敗をするのだが、その結果「失敗もまた大事」という、理学の哲学を得る主人公。
そのあたりがしっかり描けているところが感動する。

初めて時代小説を読んだ気がするが、こんなに面白いとは思わなかった。
間違いなく人におすすめしたい、是非読んでほしい一冊です。

「往復書簡」/湊かなえ

本当は「告白」を先に読むつもりだったのに、
なぜかこっちが先になってしまった、「往復書簡」

3編の中篇は、基本的には2人の手紙のやり取りで構成されている。
いずれの作品も、はじめは何気ない手紙なのかと思いきや、
徐々にある過去の事件の真相に触れていき、
思いもよらない結末を迎える、という展開で作られている。

「告白」をまだ読んでいないのが悔しいが、
何気ないところからぐっとミステリに持っていく、
なんとも言葉で説明できない感覚が、湊さんの作風なのかなあ、と思った。
とりあえず他の作品も読んでみなくては!

「マリアビートル」/伊坂幸太郎

「マリアビートル」を読了。

2人組みの悪党と、ひたすら運のない悪党と、子供の悪党が、東北新幹線で織り成すストーリー。
他の作品ほど伊坂先生の主張はなく、
スリルアクションの映像が思い浮かぶような娯楽大作。

子供の悪党“王子”が怖すぎる。
こんな中学生がいたら怖いと思う、が、いるのかもしれない。
でも、誰もがそうだが、自分の思うようにいくわけが、ない。といったところかな。

「天地明察」/冲方丁

ジャンル分け上では、時代小説ということになっているけれど、
全然そんなことはなくて、地球の真理と向き合う一人の物語だった。

何度か失敗をするのだが、その結果「失敗もまた大事」という、理学の中でもっとも大事な哲学を得る主人公。
そのあたりがしっかり描かれているところが感動する。
数学や天文学が、こういった地道な努力や積み重ねから紡ぎだされていっていることに、改めて感動した。
数学好きだからなおさらだったのかも。

作者が理系なのかどうかはわからないけど、理系じゃないなら、
こんなに理系の人の精神を理解してそれを表現できるなんて、やっぱり作家ってすごいんだなあ、と。

本当におすすめの作品。

「エスケープ!」/渡辺健

アンジャッシュのネタでよく見られる「ボタンの掛け違い」が、
そのまま物語になった、といえばいいのかな。

まんまネタバレになってしまうので
あらすじを書くことができないんだけど、
娯楽を求める人には読みやすい小説だと思います。

「カラフル」/森絵都

初めて森さんの作品を読んだ。
すごく読みやすく、若い人たちが読むべき作品だなと思った。
なんとか文庫100とかに選ばれるわけが分かる。

カラフルっていう意味がうまく使われていて、
結末はちょっとご都合主義だけど、それで終わってもいい。
自分が変われば、世界が変わる。見方次第で同じ世界は違う色になるんだ。

「愚者のエンドロール」/米澤穂信

「文化祭で出すミステリ映画の犯人が分からないから推理してくれ?」
という無茶振り依頼を、またもや主人公折木くんが乗り気ではないまま解いていくという展開。

まあそれ以上でもそれ以下でもないんですが。
面白くないわけではないけど、敢えて読むほどでも?

「氷菓」/米澤穂信

友達に薦められて読み出した作家だったのですが、実は、つい先日読んだ「インシテミル」と同じ作家さんでした。
こんなところでつながるとは!

青春ミステリ、という触れ込みなんですが、
要は高校で起こる不思議な出来事を“古典部”のメンバーの一人である主人公折木くんが解くという感じです。
ちょっと違った視点で見ると真実が見える、みたいなタイプのミステリで、
おそらく世界で唯一の「人が死なない」ミステリシリーズだと思います。

作者の米澤氏は、最近流行りの、ラノベから一般作家になるという流れにのった一人ですね。
しかし、おすすめされた割に、古典部シリーズはあまり面白くなかったです。
まあ処女作ということもあるのかもしれません。
これはこれで読み進めるとして、他のシリーズにも期待かな。

「ペンギン・ハイウェイ」/森見登美彦

森見先生の最新作は、京都を離れて、大学生を離れて、これまでとは一味違う作品になっていたと思います。
しかし、森見流は健在。おっぱい!

これをSFというのか、ファンタジーというのか、ジュブナイルともいえそうな、なんともほんわかした作品です。

大きな流れで言えば、小学生が町で起こる不思議な事件について“研究”していくものですが、
その合間合間に小学生なら誰もが経験する「自分たちだけの秘密」「小さな冒険」「大人へのあこがれ」「ちょっとした恋心」「ちょっとしたライバル」といったテーマが
次々に出てきて、子供らしさを演出してくれます。

また事件というのが、SFらしくかわいらしい。
ペンギンがなぜか発生して、<海>とよばれる謎の物体がいて、そしてそれらとは一見無縁の歯科医院のお姉さん。
そしてうまく導いてくれるお父さんの存在。

この本に、小学生の醍醐味がぎゅっと詰め込まれているような、そして人生やいろんなことについて考えさせられる、文学的な匂いも感じられる作品でした。

さらにここに森見氏ならではの妄想が加わって、うまく融合していたから、本当に森見氏はすごい。
「?乙女」とかもよかったんだけど、これはこれで森見作品の中のベスト作品だと思います。是非読んでください。

「インシテミル」/米澤穂信

純ミステリ。
逃げ場のない密閉空間におかれた12人を極限状態においたら、みたいなやつ。
それ以上でもそれ以下でもないんですが、映画化するらしく文庫になってたので読んでみた。

読み応えはまあ普通。トリックがやや普通だったけど、こういう設定ではもはや驚くようなトリックとかはなかなかないんでしょうか。
娯楽として楽しめる作品とは思います。