「四畳半神話大系」/森見登美彦

 森見登美彦2冊目の「四畳半神話大系」
 今回も京都の大学生。前作と同じような主人公が下宿の四畳半のアパートを中心に繰り広げられるストーリー。京都には(京大には?)こんな奴しかいないのか?(笑

 なるほど日本ファンタジーノベル大賞を受賞しているだけあって、今作品は前作よりもトリッキーな作りになっている。
 どの章も、登場人物や設定、さらに起こる出来事が同じという不思議な本。主人公の友人である小津が「どうせあなたはどんな道を選んだって、今みたいなありさまになっちゃうんだ」と言う場面がある。このセリフと2章の途中ぐらいまで読んだところで、なんとなく想像がつくこの本のトリック。最後まで読むと「ああ、ここに行き着きたかったんだな」ということが分かる。

 ただまぁ、いつ読んでも森見さんの本の主人公は捻じ曲がっているというか(笑

「容疑者xの献身」/東野圭吾

 久々に読んだ東野圭吾。直木賞受賞で一躍有名になった「容疑者xの献身」を読みました。
 東野圭吾を読み続けている人からすれば、なぜこの作品でなのか、とは思うかもしれないけど、安定して作品を常に送り出している東野圭吾万を辞しての受賞という感じ。シンプルミステリではなく、裏をかく叙述ミステリ。

 実はガリレオシリーズの長編。短編のときは、理系技術を駆使したトリックがメインだったんだけど、今回は湯川対犯人の理系的頭脳戦が繰り広げられる。湯川が天才数学教師石神の様子を見て、その犯罪を見抜いていくのだが、ネタバレを覚悟で書いてしまうと「その時点で戦いは終わっていたのか」というトリックに圧倒される。それだけ石神の凄さがうかがい知れる。そしてそれを見抜いてしまう湯川も湯川だが。

 普通の人はここまで割り切っているとは思わない。そこについては、最後にフォローするエピソードが差し込まれているが、これは取ってつけた感じを受けた。プロローグに入れても突飛だし、難しいなぁ。

 このような話を読んで、ゾクゾクしたり凄さが感じられると、その人は理系的というか、東野圭吾の裏のかき方がぴったり来るんじゃないかなぁと思った。

「冷たい校舎の時は止まる」/辻村深月

 初めて読む辻村深月の作品。文庫が出ていたので買おうかとも思ったんだけど、お金もないので図書館ですが。
 ただ元々の新書版は上中下の3巻構成なのね。シツコイけど、2巻以上に分かれているのに読書メモは1回しか書け…(ry

 大概期待が大きいと、その反動であまりよい評価ができないんだけど、今回もそのパターンかもしれない。「デビュー作!」とか「終わるのが切ない」、「この仲間(登場人物)との別れがさびしい」なんていう宣伝文句が書いてあるからどんな魅力的なキャラクターが出てくるのかと思ったけど、せいぜい仲の良い高校生ぐらいの感じかな。

 まず、高校生に読んでもらいたい。二十歳過ぎてこの本を読んでも「青春っていいなぁ」「懐かしいなぁ」なんて思う程度で、もっといい青春小説はたくさんあるだろう。だけど、高校生が読むにはちょうどいい。高校生独特のいろいろな悩みや不安、友人関係がリアルに書かれていて、とても共感できると思う。キャラクターが多いからその中の誰かには共感できるのではないだろうか。まぁ、若干優等生が多いけどね。
 ちなみに僕が興味を持ったキャラクターは菅原くん。後半に描かれる菅原のエピソードだけ異様に長かったということもあるかもしれないけどね。
 
 全体をいうと、高校生時代の著者と同じ視点で物語が描かれているのかなぁ、と思った。当然高校生の話だから世界が小さいのはしょうがないけど、その割りにストーリーがただただ広がっていっていて冗長に見える部分もいくつかあった。その分キャラクターが立っているのは確かにそうなんだけどね。自分の高校生活をモデルに書いていったのかなぁと。
 
 とても良い、という評価はしないけど文章は安定していて読みやすい。一応他の本も読んでみようかな、図書館だけど。

「魔王」(単行本)/伊坂幸太郎

 砂漠と魔王、これって伊坂の2本柱なんじゃないだろうか?とちょっと穿った見方をしてしまった。この2冊を連続して読んだらそう思えてきたんですけどね。
 
 今回の魔王は、法学部卒である伊坂幸太郎が現代社会にある危険性をストレートにぶつけた作品。最近ミステリ作家としてよく紹介されているけど、この作品はミステリではない。本来の伊坂幸太郎らしい作品だ。

 とあるカリスマ性を持った人間が現れる。そうすると人はどうなるだろうか。集団心理の怖さを描く。『日本人っていうのは、1度目は大騒ぎするくせに2回目からはあまり興味がないのさ、「前もあったじゃん」って。』みたいな記述があった(正確には覚えていなくて申し訳ない)。

 「憲法改正も、一度目にどうでもいい件で大騒ぎさせて、二度目は大事なことをこっそり改正しちゃえばいいんだよ」って。世の中のエライ人は多分同じようなことを考えているんじゃないかなあ、結局大衆をうまく操作した人が勝ち。その危険性に立ち向かえ。

 「考えろ、考えろマクガイバー。」

「砂漠」(単行本)/伊坂幸太郎

 本当は順番的には「魔王」が先なんだけど、ここにきて図書館にあった順に読んでしまったのでコチラが先になってしまいました。魔王は予約中なり。

 これまでで一番、伊坂幸太郎節が炸裂している作品のように思います。法律や世間の常識に立ち向かう作品。作中の人物が、っていうよりは伊坂幸太郎が、ね。いつも伊坂幸太郎は、現代社会への疑問の投げ掛けや、提言をしているように思う。

 強烈な個性の持ち主である西嶋が、痛い。出る杭は打たれるんだけど、どこ吹く風。常に自分を持っているというのはこういうことなのか。実際の世の中でこんな奴はなかなか見かけないけど、それはそういう人生は生き難いからなんだよね。でも、西嶋の主張は間違っていない。むしろ直接的、論理的で明確だ。だけどそれは世の中では通じない。

 考えさせられるエピソードがいくつかある。保護された犬のエピソードはその象徴。誰も西嶋のようには考えないけどさ、どんなときも平等にできる人間なんていない。だから、そのときそのときの直感を信じるのもいいんじゃないだろうか。

 とにかくどのキャラクターも生き生きしてて清々しい。まさに青春のようにも感じた。その美しさが一番の魅力。

「試験に出ないパズル」/高田崇史

 パズルシリーズラストは「試験に出ないパズル」。早速感想です。

 今回面白いと感じた作品は「山羊・海苔・私」と「ドルチェ」。
 前者は有名な「橋渡しパズル」を題材に、実際に複雑な条件がある中でどうやって向こう岸に渡るか、みたいな話。結局答えは明かされないままっていうオチつきですが、まぁ現実にはありえないだろうけど、話にしてしまった豪快さが○(笑
 後者はいい話だったなぁ……なんていうパズルシリーズではありえない展開だったんだけど、こういう話もあっていいんじゃない? 子供達が必死で考えたパズルは、そっとしておいてあげるのが一番です。
 やっぱりパズルって面白い。単純で問題自体がすぐ理解できるのに、答えにたどり着くには結構考えなきゃいけない、これがいいパズルの条件のように思います。ユーモアや複数の答えがあったりしたら最高。将棋のパズルなんかはそういう意味ですばらしい。

「試験に出るパズル」/高田崇史

 実家から持ってきたミステリ・シリーズ第2弾。高田嵩史さんのシリーズです。QEDシリーズが有名で、それもあったんだけどちょっと興味のあったパズルシリーズの方から読み始めました。今まで読んでた森博嗣に比べればこっちのほうが謎解き感がUP。あと読者と近い感じもする。森博嗣の作品はなんか遠い世界の話のように思えてしまうから……なんて比較ばかりではダメですな。

 有名な論理パズルがいくつも登場するこの作品。作品のトリックもパズルや謎解きがメインで、こんな日常があったらどれだけ面白いことか、と思ってしまうものです。ただパズルやミステリで重要な“設定”が千波くんのセリフによって雁字搦めになっていくのには違和感を覚えてしまった。これはだめ、あれはだめ、っていう禁止事項の条件が多い。なんかサプリガードみたいだ。

 解説にもあったけど、この中でもっともパズルらしいパズルは最終話、嘘つき小僧が出てくる話だ。「天国と地獄の分かれ道にいる案内人は、嘘つきか正直者かわかりません。天国に行くにはどうしたらよいでしょう?」は非常に有名なパズルだけど、この応用版が小説になってしまうという興味深いストーリー。実際パズルとしても非常に出来がよいと思いました。

「イニシエーション・ラブ」/乾くるみ

 友人に薦められて読み出した本書。最後の最後で、「え?」ってなってしまうこと請け合い。読み返したくなる小説、っていう触れ込みはそれほど嘘じゃない。

 ところどころで違和感を感じつつ、最後を読んだときにやはりクエスチョンマーク。ただし、最後のほうの情報はかなりのヒントになっていて、それらの条件を組み立てなおすと自ずと答えが出てくる。単純な答えを出すだけなら、ぱらぱらと本をめくり返しながら事象を整理するといった、まさに数学的な頭の運動です。
 とはいえ、その全貌をきちんと把握するにはきちんと読み返して表でも書かないといけないなぁ、と思って検索してみたら、答えが書いてあるウェブサイトがあった。かなり細かいところまで解説してあって非常によかった。半分ぐらいは分かっていたことだけど、「そんなところにも仕掛けがあったのか!」と思うところも多々。

 さくっと読めて、深読みしなければ青春恋愛となるこの作品。そして最後を読むとからくり小説にもなるというおいしい作品。たぶん「読み返したくなる」っていうのは小説の面白さじゃなくて、その全貌を把握するために調査のために読む、っていう状態なのかな。
 普通はそんなことをいうと、「作品の面白さはどうした?」ってことになりそうだけど、「イニシエーション・ラブ」の著者は数学科卒。そう考えてみると、調査のために再読、真剣に読み直すという読み方は、案外悪い意味ではなく、むしろそれが狙いでした、なんていうように思われているのではないだろうか。是非ご一読を。

「冬」/森博嗣

 ゴメン、意味わからんだ!

 一気に読み上げた四季シリーズ最終巻。おそらく春夏秋冬全部で1週間かからず読み終えたと思います(読書メモは飛び飛びですが)。

 最後に難解なものがきた。とにかくよく分からない。
 またいつか、読み返してみるときがくるかもしれないなあ。