「パラドックス13」/東野圭吾

「うわあ、めずらしい」というのが読んでいる途中あたりからの感想。
まさか東野圭吾がこんなSFを書くとは思わなかった。

突然消えてしまった人間。荒れ狂う東京を残された10人ちょっとで生き延びられるのか。
という感じの物語。漂流教室みたいな。

途中では、「生き延びるために必要なのは犠牲を最小限にすることなのか?」だとか、「福祉というのは制度じゃなくて人間そのものなんだ」だとか、
それなりに一般受けしそうな印象深い言葉は織り込まれているけど、大前提があまり東野圭吾っぽくないからなあ。

途中でこの現象が明らかになる。
しかし、そこの説明も東野圭吾にしてはかなり曖昧で、物語的に事を成り立てるための苦しい説明のように見えてしょうがない。
特に重要なミステリ的要素もなく、ちょっと期待はずれな作品でした。

「植物図鑑」/有川浩

うわー、なんて幸せな話なんだろうか。とりあえず一言で感想を言うと、「おいしいごはんが食べたい!!」(汗

主人公の視点は女性なので、それに「いいなあ」とか「うらやましい」とか書くのはおかしな話なのですが、
そういうのを無視して書くと、やっぱり「いいなあ」と思いながらニヤニヤしてしまう。
本当に生活が楽しそう、充実しているんだなあ、という幸せ感が読んでいるだけで伝わってくるこの有川節には敵いません。
読み終わったあとにキュンキュンさせられてしまう。

読み終わってから帯をみて気付いたけど、草食系男子というのはこういうことを指すのですね、お見事。

「ジョーカー・ゲーム」/柳広司

日本に、もし、スパイ組織があったら。という話。

読む前はもっと読みにくい話かと思ったし、読み始めた瞬間「歴史物?」と思ったりもしたんだけど、すぐにそんな不安は杞憂に終わります。
絶妙なトリックがあったり、虚を突くようなストーリー展開とでもいうのか、かなり驚かされる小説でした。
基本的に短編ですが、かなりの読み応えを感じました。

「海の底」/有川浩

 有川前期3部作の1つ。海に現れた生物と、潜水艦に閉じ込められた子供たちの話。
 怪物が現れる展開などは空の中と同じなのですが、子供たちの描写が上手。問題を抱える子供がいたり、小さなことを大問題にしてしまうワルガキがいたりと、お決まりの展開。あとはラブストーリーも絶妙。
 悪く言えば毎回同じような展開なのですが、そこが有川作品のよいところ。絶対に期待を裏切らない、安心して読める!
 文庫にしてもかなりの分厚さですが、さくさく読める作品です。

「厭世フレーバー」/三羽省吾

 一家の主が失踪し、残された家族5人。
 それぞれが他人のせいにしたり、世の中に文句を言ったりしつつ、1人で生きていこうとしていたりするんだけど、第3章というか、3人目ぐらいの話が始まったあたりから、話が収束していく。

 つまり、一見ばらばらな家族だけれども、そのばらばらの中に共通項があり未来を見出すことができるような不思議な作品。絶妙な作品だと思いました。

「虎と月」/柳広司

 誰もが高校で学ぶであろう、中島敦の「山月記」という作品をモチーフにした作品。 あとがきには、作者が山月記が好きで好きでたまらなくて、想像力というか妄想を広げていった結果このような作品が出来上がったとある。
 ストーリーとしては虎になった李徴の子供が、何故父親は虎になったのかということを確かめに旅に出る、という話だが、もう少し漢文の知識がある人が読んだ方が面白いに決まっている。実際話のオチも漢文の知識でできているという完成度。

「風の中のマリア」/百田尚樹

 「BOX」の作者が送る新作。前作「BOX」がものすごくよかったので、今回もタイトルで気に入って読みました。

 まず、1ページ目に書いてある説明文にびっくり。「オオスズメバチについて」。前回の青春活劇から急変して、今度はスズメバチ?

 しかしまあ、読み始めるとあっという間にその世界観に飲み込まれてしまいます。

 1つ目は自然界の厳しさと自然の美しさ。喰う喰われるの世界で生きている主人公にとって、獲物を得ることは生きることに等しい。どんな残酷な状況でも、ただ生きるために、妹を育てるために獲物を取るという描写は、とても印象深い。同時に、美しい自然を思わせる描写も所々にあり、これがちょうどよい。

 2つ目は、オオスズメバチの特徴ある一生について。他の虫に「メスなのに子孫を残さないなんておかしい」といわれて、困惑してしまう場面がある。オオスズメバチ特有のさまざまな性質について、うまく擬人化した感情を加えながら物語に織り交ぜていく様子は、とても上手に描かれていて、勉強になる。

 雄大な自然のなかの物語でありながら、自然科学的に蜂の生態についての興味まで引き起こされてしまう、よい小説でした。

「最後のパレード」/中村克

 なんか、いろいろあって廃刊になった本。

 著作権とかの問題があるけど、どれもいい話ばっかり。
 実際、ディズニーランドという夢の国は、その夢の国であること自体がバリューであるから、バイトを始めとするキャスト全員がその気持ちを持っているといわれているし、生々しい話をすれば、夢の国であるために投資するお金も半端じゃないといわれてる。

 この本ではディズニーだから、というよりも人を思いやることの大切さとかを感じればいいんじゃないのかな。中に書いてあるストーリー自体はいいものだし、同様の本がほかにあったり、この本も図書館に行けば手に入るので、読んでみればいいと思います。

「三匹のおっさん」/有川浩

 3人のおっさんが町内会に起こる問題を解決していく、という話。
 おっさんが主役であるにもかかわらずラブコメ要素もあって、やっぱり有川作品だなあ、という感じ。同時に、還暦過ぎたおじさんの元気の秘訣、そして彼らの魅力が伝わってくる作品です。

 短編集でとても読みやすく、有川先生のいうところの“ライトノベル”になっていると思います。手軽に、気軽に読んでもらえる本というジャンルに磨きが掛かっていると思います。