「永遠の0」/百田尚樹

先に言っておくと、僕は戦争肯定者でもなんでもない。
この本の著者がどちらに傾いているかという問題はあるけれども、
少なくともこの作品にその傾きは表されていなくて、
純粋な愛情の物語だといえばいいのに、と思った。

戦時中にこういう考えを持てた人がいたかどうかはわからない。
実際に、その当時の状況は非常に厳しいものがあり、
国のために、と全員が考えていたのかもしれない。

でもこのストーリーは、そんな戦時中に人を愛することを大事に考えたら、
ということを徹底的に描いた作品であり、
この作品自体を否定したりする必要はないのではないかと思った。

戦時中を舞台に作品を作ると、良くも悪くもたたかれる結果になりますね。
分厚い作品でしたが、一気に読むことができました。

「リカーシブル」/米澤穂信

母とともに知らない街にやってきた中学1年生の主人公が、
新しい街で新生活を始める中で知る街の秘密。

自分では全部を抱えきれない、けれども自分でなんとかしたい、
といった中学生ぐらいのときの葛藤を、
街の秘密を通じて描かれている作品なんだけれど、
正直言うと米澤穂信作品にしてはそこまで、という感じだった。

「禁断の魔術」/東野圭吾

ガリレオシリーズの第8作。
もともと短編だったものを、ストーリーを付け加えて長編にしたものらしい。

原爆やダイナマイトは、科学が創りだしたものだが、
よく「科学技術が悪なのか」という話になったりします。
まさにそのテーマを描いた作品で、
復讐のために、悪い目的のために物理を使ってはいけない、ということを
湯川教授が教え子に体を張って伝える、というのがテーマ。

なんだけど、最後にもやもやした感じで終わってしまうのはちょっと残念。
長編にするほどのストーリーではなかったのかもね。

「虚像の道化師」/東野圭吾

ガリレオシリーズの短編集。
実はひさびさにガリレオシリーズを読みました。
たぶん、途中の何冊かを読み飛ばしているんじゃないかな。

今回も例によって例のごとく、理系っぽいトリックばかりの作品です。
でも、当初より、人の感情だとか、感覚的なものが事件解決のきっかけになるような、
そういう傾向が強くなったように感じます。

「知ろうとすること。」/早野龍五、糸井重里

東日本大震災の原発事故のあと、
日本を襲う放射線被害について、
事故直後から学者の立場からきちんとした分析を行い、発信していた早野さんという方を
糸井重里がインタビューした(対談した)という本。

海馬のときもそうだったんだけど、
ちょくちょく見せる糸井さんの「知ったかぶり」ならぬ「分かったかぶり」が気になってしょう

がない。
技術者や科学者側の立場から、なんかこの理解だと
思いが100%で通じていないんじゃないかな、と思う場面が節々にあったけど、
まあ、0の理解よりは60%の理解が大事、
発信を0にするよりは、糸井重里の力で発信した方がよい、
という考え方と言うことかな。その考え方は分からないでもない。

早野さんが納得してこの本が出ているのなら、それでいいし、
まあ、ここに書いてあることは、なるほど、と思った。

でも誰にでも読めるように書かれている本なので、
理系の人にはちょっと物足りないかも。
どういう検査をしたとか、どういう手法を用いたとか、
もうちょっと詳しく説明があったら、僕にとってはよかったんだけど。

「ジャイロスコープ」/伊坂幸太郎

伊坂幸太郎の短編集。

とても伊坂さんの作品らしい、いわゆる毒のある作品から、
現実の中に少し不思議な世界観をつなげた作品まで、いろいろなバランスの作品が楽しめる作品。
でも、この作品で伊坂作品にはまる、ということはないでしょうから、
やはり王道の作品を読んだファン向けの短編集なのかな、というところ。

「火花」/又吉直樹

噂の又吉さんの受賞作品。

普通な自分と、その自分から見ると若干奇抜なもう一人の漫才師。
自分にはないものを持っている人のことをうらやましく、かっこよく思う心理と、
同時に、そうなることはできないとどこかで分かっている主人公が、
結局平凡な生き方をするしかないと思う心理がある。

そのもう一人(神谷)は、破天荒でありながら、ときどき真理を突いたようなセリフを言う。
そこが実は又吉さんの視線なのかな、とも思う。

その神谷は最後まで「変人」なのかというと、
最後の漫才でその部分をきちんと漫才の形で昇華していて、
ほとんどの人はそこがきちんと盛り上がってよかった、という感想のようだけど、
もちろんそこも一つの重要なポイントだけど、
たぶん他にも、漫才師の葛藤や、自分とはなにか、らしさとは何か、とか考えながら生きている、
そういう部分に触れているのがこの作品の醍醐味なのかな、とふと思いました。

「ナミヤ雑貨店の奇蹟」/東野圭吾

東野圭吾ってこんな作品書くっけ?というような作品。
ファンタジーの世界すら感じさせる作品で、珍しく殺人も犯人探しもない。

三人の間抜けな泥棒が忍び混んだのはある雑貨店。
そこへ不思議なお悩み相談が届き、ぶっきらぼうな答えを返すとすぐにその返事が届く。
徐々にそこは時空が歪んだ世界だと気づき、過去の相談に乗っていることがわかってくる。

はじめの方は短編集かと思いきや、少しずつ絡み始めるエピソードたち。
お悩み相談がつなぐ人たちの過去と現在。

思いがけず面白い作品でした。

「ほっこりミステリー」/伊坂幸太郎他

4人の作家の、人の死なないミステリー短編が入った作品。
それぞれテイストの違う4作品で、特に後半の柚月先生、吉川先生の作品は初めて読む作品だったので新鮮な感じでした。

アンソロジーの短編集は、深みのある作品にはなりにくいけれど、こうやって新しい作家に出会うよい機会ですね。

「銀行総務特命」/池井戸潤

ドラマの「花咲舞が黙っていない」の原作。

いくつかの作品はドラマにもなったもので、記憶にあるのだが、
小説版はドラマと違ってあまり派手な感じもなく、どちらかというと地味なストーリーのように思える。

だから、この作品を見た時にテレビドラマにしよう、と考える人はほとんどいないはずなのだ。
しかし、そこは「半沢直樹」を見出した人々の功績、
ストーリーさえしっかりしていれば、演出で華やかなテレビドラマに化けさせることができるということが証明されたのかなあと思う。

つづいて「不祥事」という作品も同じドラマの原作作品ということで、
時間があれば読んでみようと思う。