「チーム・バチスタの栄光」/海堂尊

 このミス大賞、映画化と何かと注目の「チーム・バチスタの栄光」を読みました。ミーハー。
 ちなみにこれが本当の今年の1冊目。実家の母親が読んだやつを借りてきました。母親もミーハー。あと、例によって例のごとく上下分冊(汗

 これが処女作、という意味ではよく出来ていると思う。やはりキャラクターが立っているというところがよい。田口と白鳥。この二人の名コンビは読んでいて楽しい。実際今年のこのミスにもこの二人を主人公とした短編が掲載されていたりする。
 あと、著者が実際の医者であるということもあって、医学的な部分がよく書かれている、らしい。実際のところ一般ピープルにはそこらへんはあまりよく分からないんだけど。

 ミステリとしては、読んだだけで犯人が推理できるかといえばノーだし、ミステリ要素は少ないと思うが、逆に言うとリアルミステリ、現実味のあるミステリという観点でみるとこれまでにない新しさと驚きをもたらす。そういう意味では大賞に選ばれた理由も分かるような気がする。

 多少医学的な記述が多いかもしれないけど、読みやすい本です。

「フィッシュストーリー」/伊坂幸太郎

 今年最初の1冊。さて、今年も目標50冊。

 表題にもなっている「フィッシュストーリー」は、伊坂お得意の時間をわざと入れ替えた作品。もともと短編で、その中が4つのブロックに分かれているようなものだから、それほど大きな話じゃない。仕掛けも実にシンプルだ。

 ここでふと考えてみた。この話は時代順に並べたら普通の話として成り立つんじゃないだろうか。
 はっきりいってYESである。それ以前に、時間軸通りに正しく並び替えるとかなり面白味に欠ける作品、日の目を見ることはないような作品になる。

 じゃあこの作品はなぜオーケーなのか。伊坂はすでに手の内を明かしている時系列を狂わせるという手段を用いるのか。1つには“伊坂らしさ”という言葉があるだろう。時系列が狂ってこそ伊坂幸太郎だと思う読者も多い。僕もその1人かもしれない。
 実際のところどうかというと、僕はこう思う。つまり、各セクションが短い中にうまく納まっていて、なおかつリンクさせる部分が上手いところがよいのではないか。
 時系列のトリックに気付いたからよい、というミステリの時代は終わっていて、そのトリックを使うからこそできる、小説だからこそ実現できるような見せ方を追求しているんじゃないかなぁ。

 最後はお気に入り作品。どれもよいけど「フィッシュストーリー」はお勧め。あと同じぐらい「ポテチ」もよかった。終末のフールでも書いたけど、最近の伊坂は“ちょっといい話”が多いかもしれないけどね。でもそれが心地いいよ。大体オチは分かっていたんだけど、タイトルの意味に気付けなかった自分は愚か者だ。途中で気付くべき場所があったのに。

「陽気なギャングの日常と襲撃」/伊坂幸太郎

 あのギャングの続編。始めの方は短編なんだけど、本のあとがきで伊坂さんも書いている通り、なんとなしに事件に入っていくあたりが面白い。

 タイトルにもある通り、4人の“日常”を描いている……んだろうけど、日常からしてこんな事件に巻き込まれていちゃ大変だなぁと思うわけで。

 伊坂のなかの唯一の?娯楽作品。深く考えることなく、楽しく読もう!

「終末のフール」/伊坂幸太郎

 とある団地のいろんな人間の生活。ただ1つ現実と違うのは、あと3年で地球が滅びるっていうことだけ。その事実が分かった直後は荒れた社会も、みんな疲れたのか収まってきた。
 そんなちょっとだけ平和を取り戻したあと3年の街で生きる人々の、いろんな人間の交錯するちょっとした生活を描く。

 ……本の帯とかに使うにはちょっとネタバレしすぎかもしれないけど、これで全部。作品の内容を的確に紹介したと思う。

 ただこれでは感想にもメモにもならないからちょっと深入りしよう。
 町には、いい人もいれば悪い人もいるし、人それぞれいろんなことを考えているんだけど、そういういろんな人が1つの町というコミュニティの中に住んでいて交錯し続けている。
 ある人は生きようとし、ある人は死を選ぼうとする。最後にやりとげたいことをする人もいれば、地球滅亡など気にもかけず我が道を行く人もいる。あと3年という微妙なスパイスによって際立つ人間模様が描かれる。

 中身はコメディ。それぞれの作品の登場人物を楽しめばよい。だけれど、最終的には生きていることを実感できたり、ほっと一息つけるようなほんわか作品だと思います。
 この作品もそうなんだけど、こうやって伊坂幸太郎を読み進めてきて最近思うのは、伊坂幸太郎は「ちょっといい話」系が増えてきたなぁと。まあ、僕はそんな伊坂幸太郎が大好きなんですけど。

「きつねのはなし」/森見登美彦

 今回はなんか不気味だったなぁ……。てなわけで、森見登美彦の「きつねのはなし」を読了。

 amazonのレビューにもあったんだけど、京都という街の怪しさ、古めかしさといった部分が伝わってくるような作品。
 京都という街は、人通りの多い通りを一歩脇道に入ると、ものすごく怪しい、どんよりした道が広がっている。入ったとたん、一気に空気が変わる。
 そんな人通りのない、暗い怪しい世界を舞台にいくつかの短編が連なる。
 これまでの能天気な馬鹿馬鹿しさとは違って、ホラーファンタジーという感じ。しかし、そこには森見登美彦独特の毒々しいユーモアが含まれている。

「春になったら苺を摘みに」/梨木香歩

 これは小説ではないんですけど。エッセイ。初めて読んだ梨木香歩さんの文章です。

 文庫化されたときに本屋で表紙をみて、ああ綺麗な表紙の本だなぁと思って手に取った記憶はあったんだけど、結局買わなかった本。今回彼女に頼まれて中国に持っていってあげたんだけど、その行きの飛行機の中でちょっと読みかけたあと、図書館で最後まで読んだ。

 とても印象的な文章。こういうときに理系の僕は表現に困る。伝えられないから。梨木さんが感じた空気をそのまま伝えてくれる文章の力を感じて、一気に引き込まれた。
 タイミングもよかったのかもしれない。海外の文化をありありと見せ付けられるわけで。

 「理解はできないが、受け容れる。ということを、観念上だけのことにしない、ということ。」

 観念上、というのはどの程度を指すか分からないけど、たぶん僕はこのことを「頭では理解している」けど「実際にはできていない」んじゃないかなぁと思った。しかし、その部分をぐいぐいと僕の中に植えつけてくれる。ものすごい勉強になった一冊だった。

「リピート」/乾くるみ

 友人に薦められて読んだ「イニシエーション・ラブ」がそこそこ面白かったので、続けて読んでみた「リピート」を読了したので日記で公開。

 今回は、前作のような「え、そういうことだったのか!」という驚きはないものの、じわじわと恐怖が募る中盤はなかなかスリリングでよい。ただ、盛り上げようとしたためなのか、“リピートするまで”の描写が冗長のようにも思う。もう少しテンポがいいとよかったのに。
 
 というのと、同時に最後の展開も急だったかと。あの段階までくれば、いずれにせよ、という思いはもう読者にあるので、結局はそれをどこで出すかという難しい問題に直面することになるのだが。まあ、今回の終わり方は、あれはあれで1つの答えではあるが、これだけ長い文章を読んだ最後としてはちょっとあっけない気もした。

 とはいえ、乾くるみらしい一冊であることは間違いないので「イニシエーション・ラブ」が気に入った人は読んでみるといいかも。あくまで「イニシエーション・ラブ」が先ですが(苦笑

「工学部・水柿助教授の逡巡」/森博嗣

 「~日常」に引き続いて「~逡巡」を読んだので読書メモ。今回は前回とは違い、小説家になるきっかけから、なったあとまでを描く3部作の2作目。本当に3部作になるのかは知らないけど。

 小説家になるまでのエピソードがつづられているのだが、あくまで水柿助教授の話であって、森博嗣当人のエピソードではないという念押しが最大のミステリィのようにも思うわけですが。真実か虚構か、それが問題だ。

 本人も何度もアピールしているが、文章を書くスピードが早すぎることと、理論的なその頭脳。小説を読んでいてもそれは感じたんだけど、こうやって改めて書かれるとすごさに驚いてしまうなぁ。なんていうほめ言葉も入れておこう(今回も作品の影響を多大に受けています)。

 お金もガッポリ儲けたし、3作目では何を書くんだろう? 老後生活?(汗

「工学部・水柿助教授の日常」/森博嗣

 実は次作「~逡巡」の方を読み出してから、やっぱり物事は順序というものが大事だと思ったので、途中まで読んでいた「~逡巡」を放り出して読んだ「~日常」。
 とりあえず森博嗣の私生活が垣間見えるお話。これはもはや小説ではなくて面白くした日記なのでは、と思うけど、そういう風に思わせるためのトリックなのかもしれないし、さらにその裏をかくという手の込んだトリックかもしれない。裏の裏は表、なんのことはない、単純だ。
 ……といった感じで無駄な話が多いのもこの作品の特徴。あえて特長とは書かない(これも無駄)。

 「~逡巡」のほうを少し読み出してしまっているからこそかけるんだけど、今回読んだ「~日常」は水柿助教授が作家デビューする前の日常の話。概ね大学での話が中心。

 イズミの地元である三重県津市がけちょんけちょんに言われている点についてはこれ以上ない憤慨とか憤懣とかをもっているのだけど、これ以上のこれが指し示すものが分からず基準もないので、実際には読む人の判断によるんだろうけど(これも当作品の影響)、とりあえず台風で船が流れ着いたのは本当。近くの造船会社から。コンクリートの比じゃないな(何比?)。

 あと僕が「そうだよね~」と思ったところは、「算数や理科、社会といった教科では、先生が納得のいく説明や見本を見せてくれるのに対し、国語の作文において先生が見本を見せてくれたためしがない」という内容。教育には力の差が必要、と書いてあり、まぁそこまで強烈には言わなくても、やっぱり違いを見せ付ける、プロフェッショナル的な部分が必要だと思うなぁ。

 まったく内容に触れずこれだけ書けるのも素晴らしい、と自画自賛しながら今回の感想は終わり。これで読みたいと思う人がいるのだろうか? いなくてもいいや。僕は困らないし(これも作品の影響だ)。

「φは壊れたね」/森博嗣

 Gシリーズの第1作が文庫化されたので、読みました。

 今回もまた変な名前のキャラクターが登場しつつ、S&M、Vシリーズに続いて萌絵ちゃんも登場。今回は萌絵がD2ということで、一番新しい時系列の作品みたいです。

 とりあえず、海月くんが重要キャラクターみたいなのですが、今回の事件はあっさりしたミステリ。不思議なところもあまりなく、常日頃森博嗣作品に悩まされている読者にとっては楽チンな作品でした。
 いや、楽チンな作品ほど「何か裏があるのでは」と思ってしまうのが森博嗣ファンだとは思うけど。

 今回の謎はタイトルの「φは壊れたね」。このあともタイトルにギリシャ文字が続くGシリーズだけど、ギリシャ文字って一般の人にはほとんど知られてないと思うんだ。高校生でも、せいぜいα、β、γぐらいで、ξとかηとかζになってくると、意味が分からないのでは。理系大学生の特権ですね。
 今回のφがどんな意味を持つのか、この作品では何も分かりません。続きのシリーズでどうなるかがポイントですな。