「オー!ファーザー」/伊坂幸太郎

「SOSの猿」のとき、『新しいジャンルに手をかけている、過渡期なのでは』みたいなことを書きました。
今回はどちらかというとSOSより前の伊坂の雰囲気が漂う本作品。
連載時を考えると納得です。

4人の父親がいる高校生・由紀夫の日常、がなぜか変な事件に巻き込まれていく、という不思議な展開の話。
4人の父親はそれぞれキャラクターが違い、そえぞれがとことん魅力的であり、それらのよいところが主人公に受け継がれ、いろんな問題がなぜかうまく解決していく。

「ゴールデンスランバー」などのように伏線がうまくはまっていく、といった感じではないが、
飄々としているがどこか魅力的というキャラクタが多いところはこれまでの伊坂作品に負けてません。
すべての父親がある意味で理想の父親なのではないかなあ。

参考文献がちょっと面白いので触れておきます。
1つ目の「東大東工大入試」の本。序盤に出てくる数学の問題(東工大の問題です)の参考にしたのでしょう。
本にはフェルマの定理という単語が紹介されていますが、発想がそれににているだけで、あの問題は多分フェルマの定理では解けないと思います。

2つ目の「フェルミ推計」の本。
中盤で出てきた、地球の直径は107メートル、歩幅は100メートル、みたいなことを覚えておくとよいといったところです。
ちょっと前から僕もフェルミ推計に興味があったので、妙に伊坂に親近感。

「TOGIO」/太郎想史郎

このミス大賞作ですが、もはやミステリじゃない、ファンタジー?

圧倒的な作品だったからミステリという枠にはまらず授賞を決めた、と選考員のコメントにあったんだよね。
……どこが?

設定とかを考えるに、未来の日本なのだろうなあ、と思うだろう。
すると、そういう目で見ると、現代社会の問題を辛辣に描いていたると捕らえられるが、
そう考えればこの世界自体がミステリである、という拡大解釈に至ることができる。
それは素晴らしいことに気付かせてくれたとは思うが。

しかし文章は(少なくとも僕には)あまり読みやすいとは言えず、
展開も突飛だったりして主張が鈍る。んー、どうなんでしょう?

「カッコウの卵は誰のもの」/東野圭吾

文章や内容は普段の東野作品並みですが、テーマがさすが東野圭吾。
遺伝子と親子関係を誰にでも読めるミステリ風に仕上げたということ自体が驚くべきことではないか!

こういう一般読者が慣れないテーマ、新しい技術や話題を、
誰にでも読みやすく、するりと一まとめに出来てしまう能力の高さには脱帽してしまいます。

まあ、とはいってもミステリ風であって、ミステリではないのが東野圭吾。ドキドキ感にはちょっと欠けるかな。

「Another」/綾辻行人

綾辻ホラー。
有名なはずなのに、一度も読んだことがなかったので、読んでみた。
めちゃくちゃ分厚かったんですが、かなり読みやすいタッチだったと思います。

呪われた学園もの。毎年そのクラスの関係者が次々と死を遂げる。
その呪いを解こうとするのだが…

ネタ晴らしはせえへんけど、この終わらせ方の致命的な問題は「“今年”しか解決してないやん!」というところ。来年はまた呪いが復活するんちゃうの?

あくまで娯楽ホラー。

「医学のたまご」/海堂尊

ズルでなぜか能力テストで1位を取ってしまった中学生が、医学部の学生と研究活動をする羽目に。
大人の都合でいろいろなトラブルに巻き込まれて、という展開になっていくのだけど、
結局は「科学の前に大人も子供も関係ない」とかかれていたあたりは真理なんじゃないかなあと思います。

あと、あとがきにもあった「何のために研究をするのか、学問に取り組んでいくのか」ということについて考えることも重要。
そういうことを読み取れるのであれば中学生や高校生にも読んで欲しいとは思うけど、
この話でそれを読み取るのは難しいよねえ。
お話としては読みやすくて海堂先生の作品にしてはライトな作品でした。

「わたしは、なぜタダで70日間世界一周できたのか?」/伊藤春香

本屋で見つけて、企画魂を感じたので読みたいと思った本。
企画するって、楽しいよね!

企画を立てましたよ!という前編と、旅でこんなこと感じました!という後編からなっていた。
通じてブログや日記を、もうすこし万人受けするように清書したような文体で読みやすいです。

じゃあ、この本で彼女は何を伝えたかったのかというと微妙。
私ってこんな人間です、という紹介・宣伝なのであればまあこの本でもいいんだろうけど、
結局私が歩んだ世界一周旅行に関する自叙伝の域を出なくて、やっぱり文中にあった「内輪ノリが楽しめない」状態だった。

じゃあ、この旅で彼女は何を得たのかというと、本文中にあった「オープンになる」だと思うのだが、そこについて詳しく書かれていたわけでもなくて。
まあ、ノンフィクションだからしょうがないか。

あと同時に、企画を立てましたよ、といっても0からの人間はなかなかそういうことができないということがよく分かった。
多分この人は恵まれているということかな。

「カルテット」/鬼束忠

なんだろう、普通に楽しめました。

両親は離婚しそう、姉貴は不良と化している。
そんなばらばらな一家の長男・開はバイオリンを習う中学生。

一家がバラバラなのに気づいて何とかしようとする開は、
ふと見つけた10年前のおばあちゃんの誕生日に開いた家族の演奏会の写真であるアイデアを思いつく。

両親は音大出、まだ小さい自分たちもいっしょに楽しそうに演奏していたのをみて、もう一度これをやろうとする。
もう、ほとんど離婚をきめている母親を説得するのに一苦労しつつも、
なんとか演奏会を開くことにはしたものの、上手くいかない練習が続く。
やはり、心がばらばらになってしまった家族は、その旋律もバラバラになってしまう。

それでも演奏をしてほんのちょっと絆ができたり、でもやっぱり離れてしまったり。
結局、すぐに来てしまった演奏会の日は、ぼろぼろの演奏で幕を閉じる。

それからもめげない開。
母親にしかれたレールの上には、プロへのバイオリニストへの道もある。
自分自身が迷いながら、それでも家族をまとめようとする開には頭が上がりません。

この数百文字の感想文ではかけないんだけど、
揺れ動く家族の様子をうまく描いていて、一人一人のキャラクターも、愛らしく描かれていると思います。

音楽的な背景にはあまり詳しくなく、その部分をもう少しきちんと描けていれば、というのと、
文章に動きとセリフしかなくて、まるで台本みたいだというところを差し引いても、さわやかな読後感を得られる作品でした。

「これが東大生・京大生の部屋だ!」/朝日奈ゆか

こないだ、本屋でたまたま見かけたときに立ち読みしてたんだけど、
図書館にあったので借りて読んでみた。

東大生のノートはこうだ、みたいな本がバカ売れしたので、
「じゃあ部屋を切り口に」という魂胆が見え見えですが、
部屋を眺めてみてもあまり共通点はない。というか基本的に汚い。

が、インタビューを通じて受験勉強に対する共通点みたいなものが見えてくる本。

とにかく、勉強に対するモチベーションややる気がハンパ無い。
どうやったらこんなに打ち込めるのか、自分自身をコントロールする力みたいなものを感じ取ってほしい。

「キケン」/有川浩

有川先生の最新作。男ばっかりの工業大学のとある部活はとんでもないことになっていた。

作風としてはシアターに近いものを感じます。
一人前の一歩手前。しかし、モチベーションだけはひたすらある、やりがいだけを追い求めていれば良い日々。
シアターの場合はそれだけではないよ、ということを描いているわけですが。

ちなみに、たぶん、実際のほぼ男子大学の状況は、こんなに明るいものではないと思います、ということだけを忠告しますが、
シアターと同じく読んでてモチベーションとかやる気が出てくるような明るい小説でした。