「図書室の海」/恩田陸

 むふぅ、負けました。「恩田陸は短編も魅力」とかどこかの本屋で見かけた気がするけど、まさにその通りだと思った。「図書室の海」には恩田陸の魅力がたっぷり詰まっていました。

 いままで短編というと、同じような粒のものを並列してあるイメージが多かったが、今回の作品では、恩田陸先生のいろんな作品を読めて楽しめる。この中から自分の好きな作品を見付けられればよいのではないだろうか。みんなそれぞれ好きな作品が異なるというのも、恩田陸の幅の広さを証明している。
 図書室の海というタイトルは、収録されている1作品のタイトルではあるが、この文庫のタイトルにふさわしいと思う。お見事。
 さらに、解説によるとこの作品達は他の作品の予告編に値するというのである。道理でこの作品を読んでいるだけでは、内容がイマイチ分からないものがあるわけだ。
 いや、恩田陸を読んだことのない人にも、一度目にしてもらって、好きな作品を探してもらいたいなぁと思います。

「予知夢」/東野圭吾

 17日に読んだ「探偵ガリレオ」の続編。またまた刑事草薙と物理学者湯川のコンビが難事件を解決するといった短編集。

 今回は前回よりオカルト色が強くなったと思う。しかし、そもそも物理学が何かを解決するといえば、それはオカルト的な何か、すなわち常識的に持ちうる科学で説明できない事件が起きたときに初めて、この天才物理学者湯川の出番が来るわけで、そういう意味ではオカルト事件が増えるのはしょうがないだろう。

 今回も「本当にその事件・現象は起こりうるのか」あるいは「そのトリックは成り立つのか」という点について第2章を挙げて考えたい。
 第2章では、犯人を挙げた根拠として、ポイントとして「ガリ」があったと書いてある。古い音響機器のボリュームつまみを捻るときに鳴るがりがりとした音を「ガリ」というらしいが、これを判断の根拠としたと書いてある。丁寧にもラブホテルを取り上げたデータまで書いてある。しかし、それはラブホテル特有であって、さすがにその部屋で同じ現象が起こるとは考えにくい。さらに見た感じでは新しい音響機器となればなおさらである。ちょっと強引なような。
 ──ちなみにネットで検索してみたら、この音から女性の存在を推理する話は他にもあるとかないとか。偶然の産物だと思うけどなぁ。

 まぁ、そんなことを言ってもはじまらない。本文中で草薙が言っているように「犯人が分かっていても、その科学的な事実が分かることで、事件の本質が分かるようになる」というのは真理だと思う。
 できれば、この作品には参考文献をつけてもらいたいと思った次第だ。

「探偵ガリレオ」/東野圭吾

 久々に東野圭吾。芥川賞受賞作「容疑者χの献身」のシリーズの中の第1作です。警察官草薙と、その相棒である物理学者湯川が謎を解き明かす短編集。

 帯やら講評には「天才物理学者」と書かれていて、いかにも頭の固い人並み外れた人物が登場するのかと思いきや、この作品の中に出てくる“天才”湯川は、とても気さくで人間味がある。それには文句はないけど、天才というイメージが壊れてしまう気もするんだけどねぇ。
 まぁ、天才というイメージに対して、これまで読んでいた森博嗣の犀川先生のイメージが強すぎたのかも知れないけど。

 作者が理系の知識を使ったマニアックな小説にしたいと言っている本作品、内容はなるほど理系のアイデアを駆使しているなぁというものから、ちょっとそれは飛躍してないか、と思ってしまうようなものが多かった。
 でも、読者が理系なら、Nd:YAGレーザーとか屈折率とか、あるいは衝撃波とか、本当にこのトリックは可能なの?なんて考えながら読めるから、意外と楽しいのかも知れません。トリックとかはそれほど凝っているわけではないです。短編だしね。

「らんぼう」/大沢在昌

 何の話かと思ったら刑事の話だったのね。それもめちゃくちゃな。

 友人から借りていた本をようやく読みましたシリーズ第2段は大沢在昌の「らんぼう」です。友人は何でこんな本を読んでいるんだろうとちょっとだけ首をひねりましたが、痛快な感じでよいです。
 破天荒な刑事コンビが、悪人を懲らしめる勧善懲悪短編が10作品入ってます。刑事コンビはとても楽しそうに生きています。そして人間味溢れてます。そして読んでいる方もなかなかに愉快な気分になれます。タイトル通りランボウな感じです。楽しみたいときにどうぞ。

 初めて大沢在昌の作品を読んだのですが、直木賞も受賞されているんですね、知りませんでした。さらに大極宮では宮部みゆきとの接点もあったりで驚きです。これからは大極宮チームの本も読んでいこうかな。

「R.P.G.」/宮部みゆき

 友人に「読むなら読んでいいよ」と言われて借りていた本が2冊ありまして。借りたのは去年の9月ですが。その1冊が宮部みゆきの「R.P.G.」です。ようやく読めたので感想なんかを。

 最近まで森博嗣のめちゃくちゃ長い小説を読んでいたから、300ページぐらいだと短く感じてしまう。で、内容はというとなかなかのもので面白かった。RPGっていうから、ゲームの話かと思ったけどそうじゃなくて、ネット上に存在する“疑似家族”の話。それぞれが自分の役割を演じるからRPGね。
 犯人は大体予想も付いていて、それをどう追いつめるかがミソ。その追い込み方がまたRPG──というのは読んでいない人にはネタバレなりそうだけど、それほど重要じゃないから書いても大丈夫だろう。ただ、“追い込み方がRPGだった”というのがいかにもとってつけた感丸出しだった(伏線も何もなく、最後に明らかにされるだけ)のでちょっと残念。
 「ブレイブ・ストーリー」よりはきちんと話が練られていてよかったのではないかと思う。

「有限と微小のパン」/森博嗣

 いよいよS&Mシリーズ最終巻「有限と微小のパン」を読んだので感想。

 トリックがひどい。これはもはやミステリというジャンルに分類できるのかという疑問すら覚える。まぁ、森博嗣の作品にトリックを求めるなということは、この日記でも何度も書いてきたことなんだけどね。
 真賀田四季については微妙なところだ。誰かの書評かコメントにに幼稚という表現があったが、それはなかなか的確のように思う。天才と位置づけたいのであれば、もっとnobelな存在にしておけばよかったのに、と思う。普通は作品中に描写される量が多いほど人物像が分かりやすくなってしまってポピュラーな存在になってしまうものだが、この作品では沢山描かれている割に犀川の方が気高く感じる。もっと四季を四季らしくしてほしい気もした。
 シリーズを通して考えると、萌絵がどんどん変わっていくといったところを表現していたのだろうかと。どうでもいい気もするけど。

 次はVシリーズなんだけど、その前に昔読んだ1巻2巻を読み直そうかと。ここにも書いてないしね。読んだのは大学生になってからだったはずなんだけど。

「数奇にして模型」/森博嗣

 やっと読み終わったので森博嗣S&Mシリーズ9作目「数奇にして模型」の感想。最後2冊は驚くべき厚さでちょっとげんなりしそうです。修論近くて忙しかったので読む速度もかなり遅かったですが。

 やっと萌絵登場で普通のお話。大学が舞台っていうのも森博嗣作品らしくてよい。いや今回は大学が舞台ってほどでもないけど。模型を作る人の気持ちはあんまり分からないし、動機というか結末というか、その辺がなんとなく反則技のように思った。それがトリックだったのか! みたいなことは一切無いっていうのは森博嗣にしてはあまり面白くないような。「笑わない数学者」のときのように、犯人探しそっちのけで森博嗣が仕掛けたトリックにはまりたかったかも。
 でも解説とかを読んでると、森博嗣の昔の姿があって、自分達の世界を紹介したかったのかな、と思う。普段伝えることができない世界、それは特に大学教授という仕事や、あるいは作家という仕事でもあまり紹介できないものだったけど、ストーリーの中の登場人物に語らせるという形でその思いを昇華させているのかと思う。
 今回も理系的考え方がたくさんでてきて、そこを理解できるかどうかはこの作品をより楽しめるかどうか変わってくると思います。

 いよいよ次が最終作。2月中に読みきりたいなぁ。

「地下鉄に乗って」/浅田次郎

 いやぁ、ミーハーですみません。映画化された「地下鉄に乗って」を読んだのでメモ。

 昔に戻ってしまうファンタジー。知らなかった事実を知ることによって、人の気持ちはこんなにも変わるものなのか。去年流行った「流星ワゴン」に似た感じがしたのは僕だけだったかなぁ。
 流星ワゴンは暗い話題を明るく変えるマジックに成功していたと思うけど、この作品はあまり明るくならない。最後はかなり切ない終わり方だと思う。僕はもっと明るい話の方が好き、かな。

「今はもうない」/森博嗣

 はい、怒濤のペースで読んでます。いよいよ8巻目「今はもうない」も読了。

 6巻までは萌絵視点で素直なミステリーが続いていたのに対し、7、8巻はちょっと違ったストーリーテリングになっていて、今回も謎そのものよりも、この会話に登場する人物が誰なのか、という点が気になってしょうがない。
 さすがに後半になるとミステリーも気になるけれど、結局最後の最後にストーリーの謎とミステリーの謎が両方解けて、スッキリする感じでしょうか。

 あと2冊でS&Mシリーズも終了。ってか残りの2冊分厚すぎですよ(汗

「夏のレプリカ」/森博嗣

 S&Mシリーズ7巻の「夏のレプリカ」を読み終えたので読書メモ。

 今回は、前巻と同時期の話。こちらに偶数章しかないのは、そのためらしいです。とはいえ、あまり関係ないどころか、両方を交互に読んだとしてもそこまで面白くなるわけではないような気がします。読み返すときにはその意図に基づいて読もうかと思いますが。
 今回は、本文中にも誰かが書いているように「誰も答えを求めていない」ストーリーです。犯人が誰なのかを追いかける人がいない。たまに萌絵が出てくるけど、ほとんど関係ない。だから、犯人が分かってもホッとしないし、嬉しくならない。動機はおまけみたいな。結局、最後まで読んで「ああそうですか」となってしまう。
 それが狙いなのかも知れないけど、盛り上がり的には微妙です。やっぱりこのシリーズは萌絵が活躍してるのが楽しいです。