「今夜はパラシュート博物館へ」/森博嗣

 森博嗣の短編を連続して読んでます。今回は「今夜はパラシュート博物館へ」です。

 この方の短編集を読んでいるといつも思うことだが、やっぱり短編のほうがレベルが高い。読む人が(いい意味で)苦労する作品が混ざっているからだ。
 長編だと、一応の解答を提示してくれる。それがミステリというものだからだ。ただし、これまで読んだ十余の長編のなかにはその例外、つまりより深い問題が課され、それについて一切言及がないというものもあるが。
 一方短編では、気楽に読める作品もいくつかある一方で、どこがオチなのか考えてしまうような作品が多い。著者が作中で、何か不思議なことがなければならない、という先入観を捨てて推理せよと言っているように、私たちも「どこかにオチがなければならない」という先入観を捨てなければならないのだろうか。

 次からまた長編が続くのでサクサク読んでいきますよー。

「グラスホッパー」/伊坂幸太郎

 伊坂の新刊をようやく読みきったのでメモ。いつも文庫化してから読んでるから一足遅いんだけどね(汗

 というわけで「グラスホッパー」。今回は、いつもの伊坂のようなテクニック三昧というよりは、3人の視点を同時に楽しみながら(?)読み進めていく、といった趣向。内容は前回のチルドレンの逆、暗いです。
 解説にもあったけど、3人とも殺し屋では読者が感情移入できない、ということでやっぱり1人は普通の感覚人間が必要だ。鈴木の視点になるとちょっとだけホッとしたのも事実。いろいろ見ているとあまり共感できないという人が多いのも確か。

 死んでいることと生きていることの違いはどこにあるのか、という疑問を問いかけてくるような気がした。しかし最後に鈴木は気づく。生きているみたいに生きていたい、それは一つ一つが戦いであり、それを具現化したものが食べること、妻の食べ方が効果的に映える。

 最後の最後に出てくる電車のシーン。これは夢か幻か。

「チルドレン」/伊坂幸太郎

 伊坂幸太郎の文庫化新刊が出たので買ってきて読みました。今回は文庫では初の短編集。でも連作短編というか、ある1人を中心とした物語というか。

 とにかく伊坂の描くキャラクターは、非常に面白い。今回も陣内という“普通”ではない人間が魅力的である。常識で捕らえられなくなるとこれほどに魅力的になるものだろうか。
 これまでの作品ほど他の作品と絡み合う要素は少ないが、逆に本作品中でつながりあう部分はたくさんある。あるいは「チルドレンII」に見られるように、1作品中で完結するものもある。
 これまでと違い短編集であるため、いろんな後味がある。愉快な話からちょっと感動できる話、トリックが仕掛けられているストーリーもある。ただし、これらはつながっているのである。「短編集のふりをした長編小説」という言葉は、嘘じゃない。

「地球儀のスライス」/森博嗣

 そろそろ描くこともなくなってきた森博嗣作品。今回は短編です。

 森博嗣作品は短編になると難しくなる。想像の幅が広がる、といえば聞こえはいいけど、ここまで難解だと正直読む時間より考える時間のほうが長いかも。

 解説者の好きな作品があったので、僕も好きな作品を書いておくと、「小鳥の恩返し」、「片方のピアス」あたりか。「僕は秋子に借りがある」あたりになると、もはや想像力が必要で、「有限要素魔法」にもなるとなんのことやら。

 次も短編集になりそうです。Vシリーズ後半はだいぶ先だなぁ。

「魔剣天翔」/森博嗣

 森博嗣Vシリーズ5作目です。ようやくここまで来ました。5月中にどこまでいけるか、だなぁ。

 今回は保呂草の動きが中心。保呂草の怪しさ全開で突っ走る話です。少しは保呂草の本性が見えるのかと思ったけど意外と見えないもんで。残りで明かされていくのかなあと。紅子の方も気になるしね。
 今回のトリックは、意外ではないが、これまでのような“卑怯”な感じではないと思う。現場にかなり遠い存在だった紅子が容易に答えを導き出すというのは、紅子の奇才ぶりをよく表しているとも思う。
 どちらかといえば現実味のあるストーリーだと思うし、ここまでのVシリーズの中では本作は上位にランクインするんじゃないかなぁ。

 Vシリーズ全体の一番のトリックは、キャラクターだと思う。5冊読んでも解けない!(汗

「夢・出逢い・魔性」/森博嗣

 まぁ、どこまでタイトルと中身に関連があるのかと思いながら読んだけど、“TV Show”、あるいは“夢の中の幽霊”という意味ではある程度か。
 今回もやっぱり犯人には「え~?」と思ってしまう部分があったように思う。だからそこに突っ込むのはやめよう。もはやミステリとしての評価を捨てているような。

 以下は珍しくネタばれです。お気をつけて。

 今回のポイントは稲沢探偵の性別に関するトリックだろう。登場シーンの記述。「稲沢真澄と会うのは、三年ぶりだ。保呂草が海外にいるとき、……。そのあと、一週間ほどずっと彼と一緒だった。」の彼。記述者が保呂草だという設定から、普通は「(保呂草は)ずっと彼と一緒だった。」と読みたくなるが、主語が抜けている以上「(稲沢真澄は)ずっと彼と一緒だった。」と読むことができる。そしてこの場合後者が正解なのだろう。 このようなトリックは、実は森博嗣の常套手段ではあるが、普通に読んでいるとまったく気にすることがない。しかし、最後の最後で「え、そうだったの?」となってしまうのである。

 いつものことだが森博嗣作品では、事件のトリックより、作品のトリックに気を遣うのだ。

「月は幽咽のデバイス」/森博嗣

 Vシリーズ3作目。勢いで読んでます。

 結論から言うと、いよいよ微妙になってきた感じ。amazonのレビューとかを見てもあまり高評価はみられない。まぁ妥当な評価だと思います。
 トリックも邪道といえば邪道。昔からいうように、「森博嗣の作品はトリックや犯人当てが目的ではない!」という気で読んでいたら、そのままするっと終わってしまった感じがする。シンプルすぎるというか。

 シリーズを通して読んでいくと何かがある、というのなら別なんだけど、今のところはあまりお勧めする点もない感じのストーリーです。次作に期待、といった感じかなぁ。

「人形式モナリザ」/森博嗣

 Vシリーズ2作目。結果として、作品のオチは理系的かなぁと思うんだけど、中身はそれほどでもないかなあ。やっぱり森博嗣作品は昔のほうが面白かったかと。

 ミステリなので中身について書く必要はないだろうから、全体的なことを。
 まだ2作目ということで、Vシリーズのテーマ的なものが見えてこない。ただ、保呂草の仕事について、少しずつ怪しいところが見えてくる。第1作での保呂草の扱いがあのような形だったにもかかわらず、さらに保呂草に設定があるらしい。2重トリックは森博嗣の常套手段だからなぁ。

「黒猫の三角」/森博嗣

 ――悔しい!!

 ぞろ目の日に、ぞろ目の人間が殺される殺人事件。まさかその人が犯人とは思わなかったし、そういうオチはありなのかとも思った。それはいいんだけど。まさかタイトルにそんなネタが仕込まれているとは思わなかった!
 確かに森博嗣のこれまでの作品をみても、タイトルで遊んでいたり、あるいはタイトルが深い意味を持っている作品があるんだけど、今回は駄洒落!
 途中に出てくるんだよ。額に三角形の模様がある猫がデルタ。黒猫のデルタ。くろねこのでるた。くろねっ…。

 ――悔しい!!(再掲

 ぞろ目とタイトルがそのような形でくっついていくとは思わなかったし、理系なんだからそこに気づけよ! と自分に対して思ってしまった。

 本編については、そこそこ面白い1作目だと思う。純ミステリと思って読むのではなく、あくまで読者をだましにかかっている、そんな作者と読者の戦いのようなものだと思ってもらえればよいのではないかと思います。Vシリーズにも期待が高まる1作目、かな。

「幻夜」/東野圭吾

 白夜行を覚えていますか? 去年の1月からのドラマでやっていたやつです。そのときに文庫本を読んだ記録が残っているのでリンクしておきます。
 今回読んだ「幻夜」はその続編、あるいは姉妹作といえるような作品です。

 白夜行と同じパターンで話が進む。ただし、前回は交互の視点で描いていたのに対し、今回はそのようなことはなく固定。また、物語中に経過する時間もそれほど多くない。(前作は実に18年!)
 前作を知っていると、今回の作品の展開が読めてしまうというのは続編の宿命だけど、前回ほどのドキドキ感を味わえなかったのは、やっぱり視点が固定であるというのも理由かもしれない。
 今回もとことん暗い。展開が読めるからこそ、たぶん最後まで救われないんだろうと思うと、より暗く感じる。

 ただ、読んでいくうちに、今回の主人公である美冬と、前作の主人公の1人である雪穂との関係が見え隠れする。作者は明言を控えているが、おそらく……といった感じ。
 どうやら3部作として完結するらしいので、次回作に120%の期待をかけることにするか。