「θは遊んでくれたよ」/森博嗣

 Gシリーズ2作目の本作。今回もθのマークがキーとなる殺人が起こるわけですが、読んでいるとS&MシリーズやらVシリーズで出てきたあの人たちが関わってくるところが読んでいて楽しい。Gシリーズは、これまでの2シリーズを読んだ人がより楽しめるシリーズやね~。

 今回も盛り上がる萌絵を周囲を余所に、海月くんがちゃっかり解決、と思いきや、それを上回る犀川先生はさすがというか。犀川先生の登場時間は本当に短いけどね(汗

 今回も読みやすい作品になっていたと思います。が、徐々に伏線が見え隠れしてるような気もしますね。これからのシリーズ展開が楽しみです。

「別冊図書館戦争I」/有川浩

 あまーーーーい!

 すでに本編でも激甘だったと思っていた図書館戦争シリーズですが、別冊はさらに甘い。もうこれはなんだ、どこの少女マンガだ?(汗
 郁と堂上の恋バナが、それはもうひたすら並んでます。それも恋愛1年生的な本当に甘々の恋バナを書くもんだから、反則級に可愛すぎる。
 特に深いストーリーもないし、本編とは余り関係ないので、甘いラブストーリーを読みたければ是非。
 ……まぁ図書館戦争シリーズを読んでることが前提ですけど。

 ところで“I”ってことは、II以降もあるってことでしょうか?

「使命と魂のリミット」/東野圭吾

 医療ものでした。まあ人気作家東野圭吾だけあって、いくつかの伏線をきちんと最後に収束させるのが非常に上手です。今回のテーマである使命について書いているところに着目。それぞれの使命について、深く書かれています。

 濃厚なことの多い東野圭吾作品の割りに、最後に犯人が折れてしまうのは、敢えてのことなのか、他の解決策が思いつかなかっただけなのか判断しかねますが、まあその辺がちょっと生ぬるい感じだったかも? 魂のリミットといえばそれまでだけど。

 気楽に、スリルを感じながら、そしてちょっと考えさせられる、そんな小説を読みたければ是非。

「フィンランド式 キッズスキル」/ベン・ファーマン

 「フィンランド式 キッズスキル」という本を読みました。

 ○○ができない、という発想ではなく「××する」というスキルが身についていないだけ、と考えることが大事で、子供たちはこの「スキル」を身につけることが大好き。そのスキルの身に付け方を紹介する本です。

 ここに書いてあるのは小学生以下に適応させるようなスキルが書いてあるので、僕には無関係な内容がほとんどですが、なかには一般的に通用するテクニックもたくさん書かれているのでよい本です。
 子供たちが成長していくステップを促し、上手に応援する方法が書かれているので、小さい子供がいる親にはよい本じゃないかなぁ。

「ゴールデンスランバー」/伊坂幸太郎

 2008年本屋大賞受賞作の「ゴールデンスランバー」を読みました。図書館で予約していたこの本が、受賞直後に手に入ってなんてGood Timing!と思いながら読みました。

 さて、最近映画で見た「死神の精度」を見ていると、当時の伊坂作品は茶目っ気のある作品が多かったなぁと思い返しつつ、その後の作品、たとえば「魔王」や「砂漠」あたりは、政治や法律といったものに切り込んでいく感じがあって、今の伊坂幸太郎の世界観を物語るのには欠かせない要素だと思ってます。

 今回はケネディ暗殺事件をモチーフに、如何にメディアの力、思い込みの力が恐ろしいかということを伝えてくる。人はメディアや思い込みによって安心したり恐怖に落とし込まれたりする。何一つこの目で見て、知っていることはないのに、だ。
 誰かが殺されれば、犯人が誰かいればいい、という感覚。パズルのピースが当てはまればどれでもいいといった考え方がいつの間にか僕達を支配している。メディアに踊らされていることに気付いていないのだ。

 そんな大きな落とし穴に、改めて気付かせられる。これが最近の伊坂作品で思うことだ。そして、これらは現実のものになってきている気がしてしょうがない。現実の政治やメディアを改めて考え直すところに来ているのかもしれない。

「クジラの彼」/有川浩

 本書はなかなかの名作だと思う。身近じゃない自衛隊員やそれに関わる人が、どのような生活――主に恋愛やけど――を、どんな気持ちで送っているのか、そういうことに思いが巡る。
 あとがきにもあるけど、実際に数多くの取材をして、その結果自衛隊員も普通の人間、僕達と同じように楽しんだり苦しんだりしているんだという、そういう面がとてもよく表現されている。

 基本的に有川浩は甘々の恋愛小説が得意みたいなので、阪急電車の恋愛部分で心の琴線を振るわされた人は、是非読んでみて下さい。

「赤い指」/東野圭吾

 1つのテーマは高齢化社会と認知症。いや、そうではない。人間の弱さが作り出す犯罪とその隠蔽工作。そんなものでうまくいくわけがない。

 誰が犯人とかを当てるミステリではないので、ここから先はネタばれのような内容も入ります。

 大きな問題は人間の弱さ。主役となる家族は3人とも弱い。
 まず主人公の昭夫。一家の主でありながら、息子とも実母とも、妻とも向き合わない。最後にそれを象徴するようなどんでん返しがある。
 そして妻である八重子。息子が起こした犯罪を隠そうとする気持ちはわからなくもないが、それを人に押し付け自分では何もしない。夫を非難するシーンがあるが、読んでいるほうからはどちらも同じにしか見えない。
 そして息子直己。息子自体を描くシーンはあまりないが、このダメな親にこのダメな子供あり、といった感じで、最後にでてくる「あいつらが悪いんだ」というセリフに象徴されていて、結局この家族は他人の所為にすることしか頭にない。だから、実母である政恵に罪をなすりつけるのだ。それしかできないのである。

 普通に読むと、高齢者には高齢者なりの心や気持ちがある、それを覚えておかなければならない、といったあたりに最終的なテーマがあるようには思えるが、僕は“きちんと向き合うことの重要性”というところを挙げる。それは犯罪だろうと老人介護だろうと。
 最後におまけのようについているエピソード、「客観的に自分がしてあげたことはどうだったか」と思うようになるというところは、その向き合うことの重要性を理解している人が行える究極の行為の一例として挙げているんじゃないかなぁと思いました。

 「こいつらホントにダメなやつらだ」と思えるような構成、文章になっているのは、さすが東野圭吾だと思いました(笑

 こんなにいろいろ書いたけど、実際には星4つぐらい。若干ストーリーに薄っぺらさも感じるし。あと、読んでいると苛々したりムカムカしたりする可能性があるし、そもそもミステリじゃないので、エンターテイメント東野圭吾を求める人には勧めません。

「ダイイング・アイ」/東野圭吾

 久々に東野圭吾の本を読んだ。やっぱり東野圭吾は見せるのがうまいなぁと思う。今回の作品はミステリというよりはサスペンスのような感じで、断片的に記憶を失った主人公が真実を知っていく、というストーリー。スピード感もあるし、映像化されたシーンが頭にどんどん浮かんでくるあたりが、ドラマ化されても人気な作家たる所以か?

 ただ、次々と新しい真実が分かる一方で、それが全部ひとつにはつながっているようには思えない。成美はどのような人物だったのか、瑠璃子は何を考えていたのか、といったあたりが伝わっていれば、より恐怖度の高い作品になっていたのかなぁと。

 テーマとしては交通事故の被害者と加害者、罪の意識とかですが、ここもちょっと物足りない感じがした。ストーリーや設定はよく分かったが、東野圭吾にしては詰めが甘いような気のした作品でした。期待しすぎなのかもしれませんが(笑
 もちろん、冒頭に書いたとおり読みやすい作品なので楽しめると思います。

「イン・ザ・プール」/奥田英朗

 神経科医の伊良部が患者の悩みを痛快な手段で解決していくといった短編集。笑いの中に現代社会のちょっとした問題を混ぜ込んだ愉快な作品です。

 とりあえずこんな医者はいないだろうけど、患者のほうは実際にいるかもしれない、というところが恐ろしい。無茶苦茶なことを言っているようだけど、気付かないうちに患者の病気は治ってしまう。そういう意味で、この伊良部はとてもスゴイ医者なのかもしれないなぁ、いやそんなことないか。みたいなね。

「こころ」/夏目漱石

 高校のときに教科書で読んだはずなんだけど。でも改めて読んでみて「この小説をどう頑張ったら一部だけ切り抜けるんだ!?」と思ってしまった。すべてを知ってこその“先生”の告白ではないか。当時の授業がどんなものだったかも覚えていないし、そこで何を得たかも覚えてはいないが、多分くだらなかったんじゃないかと思う。

 「こころ」の中の出来事を並べて物語を書くと、ただの陳腐な恋愛ものになるかもしれない。しかし夏目漱石は違う。その恋愛とか友情とかいうものを、主人公の心の中からのみ描くのだ。文庫本を読みきると分かるが、“先生”の手紙による告白は、全体の半分にもなる。全体の半分ものページを割いて、心の内面をひたすらに記しているのである。
 タイトルが「こころ」である理由もよくわかる。

 それだけ書いて、先生が気付いたことは『おれは策略で勝っても人間としては負けたのだ』というところなんだけどね。今の時代からみれば、こんな当たり前のことは中学生でも気が付くし、そこらへんのアニメとかでも出てきそうなシチュエーションだ。しかし、これを必死に描いた時代と夏目漱石にどっぷりつかってしまった。

 今年はちょくちょくこんな有名作品振り返りなんかもやっていこうかと。ただ単に次に読む本が思いつかなくなっただけのことだけど。