ウイルス検査は全員にしたほうが良いか?

ウイルス検査は全員にしたほうが良いか?

 コロナウイルスに感染しているかどうかを確認するPCR検査。日本では検査対象が中国などからの帰国者や、明らかな症状がある人、医者が必要と認めた場合などに限られているため、「希望者全員に受けさせたらいい!」という意見が飛び交いました。
 気になる症状が出ている人はもちろんのこと、無症状ながら自分が感染していて、周囲に感染させてはよくないから確認しておきたいと考える人もいることでしょう。
 しかし、この考え方が実は逆に危険を招くかもしれないということは意外と知られていません。
 この記事では、そのことを数学を使って解説していきます。

検査には「感度」と「特異度」がある

 コロナウイルスの感染を判断するための検査は、2020年3月現在ではPCR検査しかありません。そして一般的にこの手の検査には「感度」「特異度」というものがあります。

「感度」:感染している人に検査をしたときに陽性と判断される割合のこと
「特異度」:「感染していない人に検査をしたときに陰性という結果が得られる割合」のこと

 それぞれ例を挙げてみましょう。

 ある検査Xの感度が70%だとします。予め感染していると分かっている100人にこの検査Xをすると、70人には正しく陽性と出るが、30人には間違って陰性という結果がでてしまう、ということです。
 正しく検体を採取できなかったり、採取した場所にウイルスが排出されていなかったりすると、検査では陰性となってしまう、ということがあるそうです。

 特異度についても例を挙げておきます。
 特異度が99%の検査を感染していない人100人に実施すると、99人には正しく陰性の結果が出るが、1人は陽性と出てしまうということです。

 コロナウイルスのPCR検査の感度、特異度は未だに分かっていませんが、以下に挙げる記事によれば「感度は30~70%程度、特異度は99%以上と推定されています」となっています。

では実際に計算してみよう

 それでは上記のような事実を知った上で、次のような思考実験をしてみましょう。
 簡単のため日本国民が1億人いるとします。次に「本当に感染している人」と「感染していない人」の人数を仮定します。
 今回のウイルスのような場合、感染の広がりによってその(正しい)感染者数は時々刻々と変わっていくので、この仮定をするのは非常に難しいのですが、「全員にPCR検査を」という世論が高まった2020年3月11日時点の感染者数567人1を基準に、本当はその約10倍の5,000人の感染者がいるということにしましょう。

 さて、これで前提を設定することができました。いまこの瞬間、

国民:1億人
・感染者 :    5000人
・非感染者:9999万5000人

という状況で、この1億人全員に検査をするとどのような結果になるでしょうか。

 この検査は、先にある記事で述べられている条件を元に、できるだけ正確度が高い前提になるよう感度が70%、特異度が99.9%だと仮定します。

 まずは、感染している5,000人の検査結果を考えましょう。感度が70%ですから、正しく陽性と判断される人は、
  5,000×0.7 = 3,500人
ということになります。感染しているのに陰性と出る人が1,500人いるわけでです。

 次に、感染していない9999万5000人の検査結果を考えます。特異度を99.9%としましたから、
  99,995,000 × 0.999 = 99,895,005人
には陰性の結果が出ます。問題は残った、
  99,995,000 × 0.001 = 99,995人
です。およそ10万人は、本当は陰性なのに陽性と結果が出てしまうということです。

 ここまでの結果をまとめると、本当は感染者が5,000人しかいないはずなのに、陽性判断される人数は
  3,500 + 99,995 = 103,495人
と、本当の感染者5,000人の20倍もの人数になってしまいます。こうなると、病院は間違って陽性と判断された患者でいっぱいになってしまい、本当に必要な人へ、適切な処置が及ばないことが発生するかもしれません。医療崩壊を起こしかねません。
 また、本当は陽性なのに陰性と判断された1,500人も問題です。せっかく全国民に検査を行ったのに、1,500人の人が検査をすり抜けて通常通りの生活をしてしまい、そしてまた感染を広げてしまうことになりかねません。

 このように、検査に絶対はなく、感染者がまだまだ少ない段階においては、全員に検査を行うという判断のほうがかえって危険な状況を引き起こすことになることもある、ということは記憶しておくとよいでしょう。

大学入試

 このことは実は大学入試でたまに出題される頻出テーマなのです。以下では2018年の慶応大薬学部の入試問題を紹介しておきましょう。

1000人の集団があり、そのうち5人がウイルスに感染している。

この集団に対して検査方法Aを用いて、ウイルスに「感染している」か、「感染していない」かを判定する。検査方法Aでは、ウイルスに感染していない人に対して「感染している」と判定をする確率が 31000 であり、ウイルスに感染している人に対して「感染していない」と判定する確率が 11000 である。

(1) ウイルス感染している人が、検査方法Aでウイルスに「感染している」と判定される確率は   である。

(2) この1000人の集団から1人を検査方法Aで調べたとき、ウイルスに「感染している」と判定される確率は   である。

(3) この1000人の集団から1人を検査方法Aで調べたとき、ウイルスに「感染している」と判定された。この人が実際には感染していない確率は   である。

[2018 慶応大・薬]
  1. https://www.mhlw.go.jp/stf/newpage_10130.html 2020年3月26日閲覧。

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