数学的帰納法 [1998 早稲田大・政経]

問題

(1) k , n を正の整数とし、

    \begin{align*} S_k &= 1 - \frac{1}{2} + \frac{1}{3} - \frac{1}{4} + \cdots + (-1)^{k-1} \frac{1}{k} \\ T_n &= \frac{1}{n+1} + \frac{1}{n+2} + \cdots + \frac{1}{n+(n-1)} + \frac{1}{n+n} \end{align*}

とする。このとき、等式 Sk = Tn が成立する k を n で表せ。またその等式を n に関する数学的帰納法によって証明せよ。
(2) n を正の整数とするとき、 Sn の最大値と最小値を求め、解答欄にそれらの値を記入せよ。また、その理由を示せ。

イズミの解答への道

 (1)は予想して帰納法で証明、という最も基本的なパターンですが、帰納法で n = k + 1 のときを示す際の式変形に多少苦労するかもしれません。
 (2)ではまず解答を書く前に与えられた式から Si の大小関係をつかみましょう。答えが分かったあとで、その道筋をうまく式から導けるように考えるとよいでしょう。

解答

 書き出していくと、

    \begin{align*} &S_1 = 1 , S_2 = \frac{1}{2}, S_3 = \frac{5}{6} , S_4 = \frac{14}{24} , \cdots \\ &T_1 = \frac{1}{2} , T_2 = \frac{7}{12} , \cdots  \end{align*}

となることから、
  S2n = Tn ……(※)
すなわち、 k = 2n と考えられる。次に(※)を数学的帰納法によって証明する。

(i) n = 1 のとき
 上で調べたとおり、 S2 = T1 より、成立。

(ii) n = k のときに成立すると仮定すると、 n = k + 1 のとき、

    \begin{align*} &S_{2(k+1)} \\ &=\left( 1 - \frac{1}{2} + \cdots + \frac{1}{2k-1} - \frac{1}{2k} \right) + \frac{1}{2k+1} - \frac{1}{2k+2} \\ &=\left( \frac{1}{k+1} + \frac{1}{k+2} + \cdots + \frac{1}{2k} \right) + \frac{1}{2k+1} - \frac{1}{2(k+1)} \\ &= \frac{1}{k+2} + \cdots + \frac{1}{2k} + \frac{1}{2k+1} + \frac{1}{2(k+1)} \\ &= \frac{1}{(k+1)+1} + \cdots + \frac{1}{(k+1)+(k-1)} + \frac{1}{(k+1)+k } +\frac{1}{(k+1)+(k+1)} \\ &=T_{k+1} \end{align*}

となることより成立。

 よって数学的帰納法によって題意は示された。

(2) 問題文に与えられた Sk , Tn の式を (a) , (b) とする。
 まず、(b)より、明らかに、

    \[ T_1 < T_2 < \cdots < T_n \]

すなわち、

(c)   \[ S_2 < S_4 < \cdots < S_{2n}  \]

である。また、 Sn の式から、

    \[ S_{2n-1} = S_{2n+1} + \frac{1}{2n} - \frac{1}{2n+1} > S_{2n+1} \]

となることから、

(d)   \[ S_1 > S_3 > \cdots > S_{2n-1}  \]

が成り立つ。また、(a)式から、

    \[ S_{2n-1} - \frac{1}{2n} = S_{2n} = T_n \]

であるから、

(e)   \[ S_{2n-1} > S_{2n}  \]

である。
 (c) , (d) より最大値は S1 あるいは S2n のどちらかであるが、(d) と (e) より、

    \[ S_1 > S_{2n-1} > S_{2n} \]

となるから最大値は S1 である。
 同様に最小値は S2 あるいは S2n-1 のどちらかであるが、(c) と (e) より、

    \[ S_2 < S_{2n} < S_{2n-1} \]

であるから、最小値は S2 である。
 よって、最大値は S_1 = \bm{1}、最小値は\displaystyle S_2 = \bm{\frac{1}{2}} となる。

研究

k = 2n のときだけ?

 (1)の証明では、 k = 2n のとき“のみ”であることは証明できていない。しかし、実際に(2)で現れた (c) , (d) , (e) 式から、 i ≠ j に対して Si ≠ Sj となる( Sk が2回同じ値をとることはない))ことが示されるので、 k = 2n のときのみであることを示すことはできる。
 このことまでを解答として求めると難しいということもあってか、(1)ではここを問題の対象としていない。また、次に示す例題ではその問題が起こらないように配慮されている。

類題1

 実はこの等式は非常に有名で、類題も多数ある。1つ目は(1)とほぼ同じ問題である。

正の整数 n に対して

    \[ S(n) = \sum_{p=1}^{2n} \frac{(-1)^{p-1}}{p} , \quad T(n) = \sum_{q=1}^n \frac{1}{n+q} \]

とおく。等式 S ( n ) = T ( n ) ( n = 1 , 2 , 3 , …… )が成り立つことを、数学的帰納法を用いて示せ。

【解答】
 (1)と同じなので省略。

類題2

 次の類題は数学IIIの知識を必要とする。結果としてある有名な無限級数の和を求めることができる。これがこの等式がよく出題される理由でもある。

自然数 n に対し、

    \begin{align*} S_n &= 1 - \frac{1}{2} + \frac{1}{3} - \frac{1}{4} + \cdots + \frac{1}{2n-1} - \frac{1}{2n} \\ T_n &= \frac{1}{n+1} + \frac{1}{n+2} + \cdots + \frac{1}{2n} \end{align*}

とおく。このとき、次の問いに答えよ。
(1) Sn = Tn ( n = 1 , 2 , …… )となることを証明せよ。
(2) 次の不等式が成り立つことを示せ。

    \[ T_n < \int_0^1 \frac{dx}{1+x} < T_n + \frac{1}{2n} ( n = 1, 2, \cdots ) \]

(3) \lim_{n \to \infty} S_nを求めよ。

【解答】
(1) 省略。
(2) f(x) = \dfrac{1}{1+x}とおいて区分求積法に寄って積分を近似する。ここで、 f ( x ) は単調減少だから、

    \[ f \left( \frac{k}{n} \right) > f \left( \frac{k+1}{n} \right) \]

なので、

    \[ \sum_{k=1}^n \frac{1}{n}  f \left( \frac{k}{n} \right) < \int_0^1 \frac{dx}{1+x} < \sum_{k=0}^{n-1} \frac{1}{n}  f \left( \frac{k}{n} \right) \]

が成り立つ。左辺は Tn に等しく、右辺は、

    \begin{align*} \sum_{k=0}^{n-1} \frac{1}{n}  f \left( \frac{k}{n} \right) &= \frac{1}{n} + \frac{1}{n+1} + \cdots + \frac{1}{n+(n-1)} \\ &=\frac{1}{n} + T_n - \frac{1}{2n} = T_n +\frac{1}{2n} \end{align*}

となることから、与えられた式は示される。

(3) (2)の結果と、 Sn = Tn より、

    \[ \int_0^1 \frac{dx}{1+x} - \frac{1}{2n} < S_n < \int_0^1 \frac{dx}{1+x} \]

であり、 n → ∞ のとき、はさみうちの定理より、

    \[ S_n = \int_0^1 \frac{dx}{1+x} = \left[ \log (1+x) \right]_0^1 = \bm{\log 2} \]

となる。

類題3

 例題2と同じですね。ダメ押しです。

(1) 自然数 n に対し、

    \[ \sum_{i=1}^n \frac{1}{n+i} + \sum_{j=1}^{2n} \frac{(-1)^j}{j} = 0 \]

が成り立つことを数学的帰納法を用いて証明せよ。
(2) 等式

    \[ \sum_{j=1}^{\infty} \frac{(-1)^j}{j} = -\log 2 \]

が成り立つことを証明せよ。

【解答】
例題2を利用して、考えてみてください。(1)の結果を使い、\displaystyle \sum_{i=1}^n \frac{1}{n+i}\displaystyle \int_0^1 \frac{dx}{1+x}と関連するところまでを見通せますか?

コメント

タイトルとURLをコピーしました