正の実数 a , b に対して とする。以下の問いに答えよ。
(1) min ( a , b ) ≦ G ( a , b ) ≦ A ( a , b ) ≦ max ( a , b ) が成り立つことを示せ。
ただし、 min ( a , b )は a , b のうちの最小の数を表し、 max ( a , b ) は a, b のうちの最大の数を表す( a = b の場合は a , b のうちのどちらかの数を表すとする)。
(2) a > b , a0 = a , b0 = b として、以下の数列を定義する。
このとき数列 { an } と数列 { bn } は同じ極限値(αとする)に収束することを示せ。
(3) an+2 を an と bn を用いて表せ。ただし { an } と { bn } は(2)で定義した数列とする。
(4) cn+2 と cn+1 の間に以下の関係が成り立つことを示せ。ただし、 { cn } とαはそれぞれ(2)で定義した数列と極限値とする。
[2016 九州大・理(後)]
イズミの解答への道
解答
(1) a ≦ b としても一般性を失わない。
であるから、題意は示された。(なお、等号成立はすべての不等号について a = b のとき。)
(2) まず、
(a)
であることを数学的帰納法で示す。
n = 0 のとき、 であり、いまであるから、明らかに、
であり、(1)の結果からであるから、
が成り立つ。すなわち(a)が成り立つことが示される。
つぎに、n = k のときに(a)が成立すると仮定すると、
であり、 n = k + 1 のときを考えると、
である。また、n = k の仮定より、 b ≦ bk+1 , ak+1 ≦ a だから、
となる。最後に(1)の結果より、であるから、
となる。以上より n = k + 1 のときにも(a)が成立。
以上より、(a)は0以上のすべての整数 n について成立することが示された。
さて、このことより、
- 数列 { an } は減少数列で下に有界であるから収束し、極限値 A をもつ。
- 数列 { bn } は増加数列で上に有界であるから収束し、極限値 B をもつ。
であるから、極限を取ると、
であるから、これを解くと、A = B となる。よって { an } と { bn } は同じ極限値 α に収束するといえる。
(3)
(4) (3)と同様に、
であるから、(3)の結果と辺辺かけると、
すなわち
となる。
よって、
であれば問題の不等式を満たすことが示せるが、この式はすべての整数 i に対して であることより成立する。
以上より問題の式が成立することが示された。
解説
上界を持つ単調増加数列は収束する
直感的に「増え続ける数列が収束するなんてことあるの?」と思う方もいるかもしれませんが、増加し続けるのに、ある数より小さくなければならないという条件がつくと、これはどこかの数字に収束せざるを得なくなります。これがざっくりとした説明です。
この「壁」を上界や上限といった言葉で表現します。高校で学ばない表現なので説明をしておきましょう。
上界とは「どの項よりも大きい(最大値が存在すれば、最大値と同じ数字でもよい)」ような数のことで、たとえば
an = 1 – 1n
とおくと、すべての an は 1 より小さいので、 1 や 2 や 1000 といった数字はこの数列の上界となります。もちろんすべての数列に上界が存在するとは限りません。
上界が存在するとき、上界のうち最も小さい数、今の例でいえば 1 のことを、上限といいます。
1つ例を上げてみましょう。初項 、公比 の等比数列の和 S を考えてみましょう。
この和 S は、ある面積1の正方形の半分、次はその残りの半分、さらにその残りの半分、をどんどん足していくことをイメージします。半分ずつ足していくので確実にもとの面積 1 を超えることはありません(この1に近づいては行きそうですが)。このとき、 1 は上限を意味します。
ところで、極限のところで学んだ通り、数列の公比が 1 より小さいので、この和 S は収束します。
「上界を持つ単調増加数列の収束」の1つの例として、高校ではこれをベースに考えればよいでしょう。このことが、等比数列でなくとも成り立つ、ということです。どんどん”追いつめられていく”感じがつかめたでしょうか。
実は証明できない!
「感覚はわかったけど、数学なんだから証明を書いてよ」とおっしゃる方もいるかもしれません。しかし、このことを証明することはできません。実はこの事実は「実数の連続性の公理」となっており、公理である以上証明することはできません。しかしそのことを高校の教科書では説明していません。詳しくは大学の解析学のテキストで勉強してみてください。
しかし高校数学でこのことを用いている
そもそも高校で証明できないし、「有界な単調増加数列が収束する」という話も聞いたことがないぞ、というかたがほとんどでしょう。
しかし、実は数学IIIの教科書には、このことが必ず載っているはずなのです。それは、自然対数 e を定義するところです。みなさん、お手元の数学IIIの教科書を引っ張ってきてみてください。
コメント
上界は上限より大きな数のことですから、「増え続けても、これ以上大きい数字にはならない、という限界の数」ではないのでしょうか。例えば、1<x<2の上限は3であるは偽ですが、1<x<2の上界は3であるは真です。
>ななしの数学徒様
ご指摘ありがとうございました。
おっしゃる通り、上限と上界の概念をごちゃまぜにして書いてしまっていました。
記事の表現を修正しました。